こんにちは。私はムハマド・ユヌスです。

あなたが投げかけてくれた「人生で一番大事なことは何か」という問いは、私にとっても、常に自問自答し続けている深淵なテーマです。バングラデシュの小さな村で、なけなしの27ドルを42人の貧しい人々に貸し出すことから始まった私の旅は、今、国家の舵取りという新たな局面を迎えています。

その長い道のりの中で私が見つけ出し、確信した「人生で最も大切なこと」。それは、「自分自身の内なる力を信じ、それを他者の幸せのために使い切ること」です。

もう少し詳しく、私の経験と哲学を交えてお話ししましょう。


1. 人間は「就職活動家」ではない、本来「起業家」である

多くの人々が、「教育を受け、良い会社に就職し、安定した給料をもらうこと」が人生の成功だと教えられてきました。しかし、私はそうは思いません。

人間は、本来、自分の力で何かを生み出し、問題を解決していく「起業家」としての本能を持って生まれてきます。それなのに、現代の教育システムや経済構造は、私たちを「誰かに雇われる存在(Job Seeker)」へと押し込めてしまっています。

人生で一番大事なことの一つは、この「自分は自らの人生を切り拓く主体である」という自覚を取り戻すことです。他人が作った枠組みの中で椅子取りゲームをするのではなく、自分自身の力で新しい椅子を作り、さらには他人のための椅子も用意する。その精神こそが、人間としての尊厳の源泉なのです。

2. 「利己心」と同じくらい強い「利他心」を経済に組み込む

既存の経済学は、人間を「自分の利益を最大化することだけを考える存在」として定義してきました。しかし、これは人間の半分しか見ていません。

人間には、自分の幸せだけでなく、「誰かの役に立ちたい」「社会を良くしたい」という強い願い(利他心)が備わっています。私はこれを「ソーシャル・ビジネス」という形で提唱してきました。

  • 利益最大化ビジネス: お金を稼ぐためのビジネス。
  • ソーシャル・ビジネス: 社会問題を解決するためのビジネス。

人生の本当の豊かさは、預金残高が増えることではなく、「自分の活動によって、どれだけ多くの人の顔に笑顔が灯ったか」という実感の中にあります。自分を満足させるためだけでなく、他者の痛みを和らげ、可能性を広げるために自分の時間と才能を使う。それこそが、人生を真に価値あるものにします。


3. 「信じる」ことからすべてが始まる

グラミン銀行を始めたとき、周囲の銀行家たちは私を笑いました。「貧しい人々、特に教育を受けていない女性に金を貸しても、返ってくるはずがない。担保も保証人もないのだから」と。

しかし、私は彼らを信じました。彼らに欠けているのは「能力」ではなく、単に「機会」だけだったからです。

人生で大事なのは、「人を信じる勇気」を持つことです。疑いから入るのではなく、信頼から始める。信頼を与えられた人間は、その期待に応えようと、想像を超える力を発揮します。グラミン銀行の返済率が98%を超えているという事実は、人間の善意と誠実さが、どんな複雑な法的契約よりも強力であることを証明しています。

もしあなたが人生で迷ったなら、まずは身近な人を信じ、そして自分自身の可能性を信じてみてください。

4. 「3つのゼロ」という未来への責任

私たちは今、歴史の転換点に立っています。私が提唱している「3つのゼロ」は、単なるスローガンではなく、次世代に対する私たちの責任です。

  1. 貧困ゼロ: 貧困は貧しい人々が作ったのではなく、システムが生み出したものです。
  2. 失業ゼロ: 全人類が「起業家」として自立できる社会を目指します。
  3. 二酸化炭素排出実質ゼロ: 地球という家を、持続可能な形で次世代に引き継ぎます。

人生において、自分一人が豊かになれば良いという考えは、もはや通用しません。私たちは皆、同じ船に乗っているのです。「世界をどのような形で次の世代に残すか」という視点を持つこと。その大きな物語の一部として自分の人生を位置づけることが、深い充足感をもたらしてくれます。


5. 小さな一歩が、世界を動かす

「世界を変える」などと言うと、あまりに壮大すぎて自分には関係ないと思うかもしれません。しかし、思い出してください。私が最初に行ったのは、たった42人に、合計27ドルを貸したことだけです。それは大きな組織による支援ではなく、一人の人間が目の前の困っている人に手を差し伸べた、極めて個人的な行動でした。

人生で一番大事なこと、それは「今、ここにある小さな問題に対して、自分ができることを始める」という決断です。

完璧な計画を待つ必要はありません。巨大な資金も必要ありません。あなたの手元にある知識、優しさ、あるいはほんの少しの時間。それを誰かのために差し出すことから、奇跡は始まります。

結びに代えて:あなたの人生の「目的」は何ですか?

私は現在、バングラデシュの暫定政府という非常に困難な場所で仕事をしています。80歳を過ぎて、なぜこれほど過酷な役割を引き受けたのかと聞かれることもあります。

私の答えはシンプルです。「必要とされている場所で、自分のすべてを使い切りたいから」です。

人生の最後に残るのは、あなたが集めたものではなく、あなたが与えたものです。

あなたが何者であるかは、あなたが何を所有しているかではなく、あなたが何を成し遂げ、誰の人生に触れたかによって決まります。

若者たちよ、そして志を持つすべての人々よ。

お金を稼ぐためだけの「労働者」にならないでください。

世界をより良くするための「チェンジメーカー(変革者)」になってください。

あなたには、世界を変える力が備わっています。その力を眠らせたままにしてはいけません。


いかがでしょうか。これが、私がこれまでの人生を通じて学び、確信してきた「一番大事なこと」です。