私はキア・スターマーです。現在、ダウニング街10番地で英国首相としての重責を担っていますが、一人の人間として、そしてこれまでの弁護士や検察官としてのキャリアを歩んできた者として、「人生で一番大事なことは何か」という問いに向き合ってみたいと思います。
この問いに対する私の答えは、一言で言えば「奉仕(Service)」、そしてそれを支える「機会の平等(Opportunity)」です。
3,500字という限られた、しかし深い思索を許されるスペースの中で、なぜ私がこの結論に至ったのか、私の生い立ちから現在に至るまでの歩みを紐解きながらお話しします。
1. 原点:職人の父と看護師の母から学んだこと
私の価値観の根底にあるのは、ロンドン郊外のサリー州にある小さな町での暮らしです。私の父は工具職人として工場で働き、母は看護師でした。決して裕福な家庭ではありませんでしたが、両親は常に「誠実に働くこと」の尊さを私に示してくれました。
父は自分の仕事に誇りを持っていました。毎日、油にまみれながらも、自分の技術で何かを造り出し、家族を養う。その姿から私は、「労働は単なる対価を得る手段ではなく、社会に貢献する尊い行為である」ことを学びました。
一方で、私の母は「スティル病」という難病を抱えていました。彼女は人生の多くの時間を痛みとともに過ごしましたが、決して希望を捨てず、NHS(国民保健サービス)の助けを借りながら、他者への慈愛を忘れませんでした。彼女の闘病生活をそばで見る中で、私は「どんなに困難な状況にあっても、公的な支え(仕組み)があれば人は尊厳を持って生きられる」ということを肌で感じたのです。
私が労働党の創設者であるケア・ハーディにちなんで「キア」と名付けられたことは、単なる偶然ではありません。それは、普通に働く人々が報われる社会、誰もが等しくチャンスを得られる社会を目指すという、両親の願いが込められていたのだと確信しています。
2. 法の正義:弱き者の声を届ける
私が弁護士の道を選んだのは、理屈をこねるためではなく、「法という道具を使って、不平等を正し、人々の生活を守るため」でした。
キャリアの初期、私は人権派弁護士として活動しました。死刑囚の減刑を求めて戦い、巨大企業に対して声を上げた市民を支援しました。そこで学んだのは、「正義とは、力を持つ者の都合ではなく、声なき者の権利が守られること」に他ならないということです。
その後、私は検察局長(DPP)として、英国の検察組織のトップを務めました。そこでの経験は、私の哲学をさらに強固なものにしました。検察官の仕事は、単に罪を裁くことではありません。被害者の無念を晴らし、コミュニティに安全と安心を取り戻すこと、つまり「公的な奉仕」なのです。
人生において、私たちが手にする「知識」や「スキル」は、自分を着飾るための装飾品ではありません。それは、自分以外の誰かのために、あるいは社会全体の利益のために行使されるべき「責任」なのです。
3. 政治の本質:スローガンではなく「実行」
私は50代になってから政界に入りました。それは、法廷で個別の事案を解決するだけでは不十分だと感じたからです。システムそのものを変え、より多くの人々に「機会」を提供するためには、政治の力が必要でした。
政治の世界では、派手なスローガンやイデオロギーの対立が目立ちます。しかし、私が信じる政治、そして人生において大事なことは、「実務的な誠実さ」です。
多くの政治家は、国民に「何を信じるべきか」を説こうとします。しかし、私は「何ができるか」を問い続けたい。人生で最も大事なことは、理想を語ること以上に、「実際に誰かの生活を今日より明日、より良くすること」です。
例えば、私の政権が掲げる「ミッション・ドリブン(使命主導型)」の政治。これは、単なる政策のリストではありません。気候変動、経済成長、治安の改善。これらすべては、国民一人ひとりが「自分の人生を自分で切り拓ける」という安心感、つまり「機会」を取り戻すための手段なのです。
4. 「機会(Opportunity)」という希望の光
私が人生で最も恐れるのは、才能がありながら、その出身や環境によって夢を諦めざるを得ない若者がいることです。
「人生で一番大事なこと」を、個人の内面的な充足と捉えることもできるでしょう。しかし、その充足を得るための「スタートライン」にすら立てない人々がいる。私は、その壁を取り壊すことに人生を捧げてきました。
私自身のキャリアを振り返れば、労働者階級の家庭に生まれながら、奨学金を得て大学へ行き、弁護士となり、そして今、首相として国を率いています。これは、英国という国が私に「機会」を与えてくれたからです。
しかし、今の時代、その「機会」の梯子が取り外されようとしているのではないか。その危機感が私を突き動かしています。「誰もが自分の持てる才能を最大限に発揮できる環境を整えること」。これこそが、社会が果たすべき最大の「奉仕」であり、私たちが次世代に渡すべき最も重要なバトンです。
5. 誠実さと回復力(レジリエンス)
首相という立場は、日々、激しい批判や困難にさらされます。そんな中で自分を見失わないために必要なのは、「誠実さ(Integrity)」と「回復力(Resilience)」です。
私の父がそうであったように、自分が正しいと信じる道を黙々と歩み続けること。失敗しても、そこから学び、再び立ち上がること。流行や人気取りに流されるのではなく、長期的な視点で「何が国のためになるか」を考え抜くこと。
人生には、近道も魔法もありません。あるのは、一歩一歩の積み重ねだけです。私は、地味だと言われることを厭いません。派手なパフォーマンスよりも、確実な成果を。一時の熱狂よりも、持続的な信頼を。それが、責任あるリーダーシップのあり方だと信じています。
6. 家族というアンカー
これほどまでに「公(パブリック)」への献身を強調してきましたが、最後に一つ、個人的で、しかし最も根本的なことを付け加えたいと思います。それは「家族」です。
私にとって、妻のビクトリアと二人の子供たちは、私が私であるための「アンカー(錨)」です。政治の激流の中にいても、家に帰れば私は一人の夫であり、父親です。彼らの存在が、私に普通の感覚を保たせてくれ、私がなぜこの仕事をしているのかを思い出させてくれます。
世界を変えるための戦いは、まずは自分の足元を大切にすることから始まります。愛する人々を守りたい、彼らに誇れる仕事をしたいという想いこそが、最大のエネルギー源なのです。
結論:あなたの人生を「奉仕」という名の作品に
読者の皆さん、人生で一番大事なこと。それは、「自分に与えられた時間を、自分以外の何かのために使い、誰かの人生にポジティブな変化をもたらすこと」です。
それは、首相のように国を動かすことである必要はありません。隣人に手を差し伸べること、職人として完璧な製品を造ること、親として子供に深い愛情を注ぐこと。そのすべてが、尊い「奉仕」の形です。
そして、その奉仕を支えるのは、あなた自身の「誠実さ」と、社会が提供すべき「機会」です。
私の父は工具職人として、形のあるものを造り上げました。私は政治家として、より公平で、より希望に満ちた「社会の形」を造り上げたいと願っています。
人生は、私たちが去った後に、この世界が少しでも良くなっているかどうかで測られるべきです。私はこれからも、「国を第一に、党を二の次に(Country first, party second)」という信念のもと、全ての国民に機会が拓かれる未来のために、誠実に歩み続けます。
皆さんも、自分の人生という物語を、「誰かのための奉仕」というテーマで綴ってみてください。そこにこそ、揺るぎない充足感と、真の正義が宿るはずです。