こんにちは。私はステファン・J・スケリです。

アメリカン・エキスプレスのCEOとして、また一人の人間として、これまでの40年以上のキャリアと人生を振り返り、何が私を突き動かしてきたのか、そして「人生において真に最も重要なことは何か」という問いに対する私の答えを、ここでお話ししましょう。

3,500字という限られた枠の中ではありますが、私がこれまでの旅路で学んだ教訓、特に「人間関係」「誠実さ」「レジリエンス(復元力)」、そして「奉仕の精神」について深く掘り下げていきたいと思います。


1. 「関係性」こそが人生の基盤である

私がアメリカン・エキスプレス(Amex)に入社したのは1985年のことでした。それ以来、私は40年近く同じ会社に身を置いています。現代のビジネス界では、一つの会社にこれほど長く留まることは稀かもしれません。しかし、私がこれほど長く一つの場所に居続け、情熱を燃やし続けることができた理由は、単なる「仕事」以上のものがそこにあったからです。それは「人々との繋がり」です。

人生で一番大事なことの第一は、「誰と共に歩むか」、そして「いかに誠実に人と接するか」です。

私はニューヨークのクイーンズで育ちました。そこは、コミュニティの絆が非常に強く、互いに助け合うことが当たり前の環境でした。私の経営哲学の根底にあるのは、この「コミュニティ」の感覚です。ビジネスでもプライベートでも、成功は一人で成し遂げられるものではありません。あなたが築き上げたネットワーク、あなたが困難な時に手を差し伸べてくれる人々、そしてあなたが成長を助けた人々――その「関係性の質」こそが、人生の豊かさを決定づけます。

Amexにおいて、私たちは「サービス」を売っていると言われますが、本質的に売っているのは「信頼」です。そして信頼とは、人と人との強固な関係性の上にしか成り立ちません。人生も全く同じです。

2. 「誠実さ」という北極星

次に重要なのは、「誠実さ(Integrity)」です。

CEOとしての私の仕事は、毎日何千もの決断を下すことです。その中には、短期的には利益を損なうかもしれないが、長期的にはブランドを守るために必要な決断が多々あります。私が指針としているのは、「正しいことを、正しい理由で行う」というシンプルな原則です。

「正しく勝つ(Winning the Right Way)」

これが私の座右の銘です。どんなに大きな成果を上げても、そのプロセスに不正や不誠実があれば、それは本当の勝利ではありません。なぜなら、一度失った信頼を取り戻すには、それを築くのにかかった時間の何倍もの努力が必要だからです。あるいは、一生取り戻せないことさえあります。

人生の岐路に立った時、効率や近道を選びたくなる誘惑は常にあります。しかし、自分の内なる「北極星」である誠実さを失わずに進むこと。自分に対しても、他人に対しても嘘をつかないこと。これが、夜ぐっすりと眠り、胸を張って明日を迎えるために最も必要なことなのです。

3. レジリエンス:嵐の中でこそ真価が問われる

私のCEOとしての任期中、最も困難だったのは間違いなく2020年、新型コロナウイルスのパンデミックが世界を襲った時でした。旅行や娯楽が中心のAmexにとって、世界がロックダウンされたことは存亡の危機に等しい衝撃でした。

その時、私は社員たちにこう伝えました。「私たちはこの危機を乗り越える。しかし、ただ生き残るだけでなく、以前よりも強くなって戻ってくる(Stronger for longer)」と。

人生で一番大事なことの三つ目は、「レジリエンス(逆境を跳ね返す力)」です。

人生には必ず嵐が訪れます。それは予期せぬ病気かもしれませんし、キャリアの挫折、あるいは大切な人との別れかもしれません。その時、自分を支えるのは「なぜ自分はここにいるのか」という目的意識と、困難に立ち向かう意志です。

レジリエンスとは、単に耐えることではありません。困難から学び、自分を適応させ、進化させることです。パンデミックの最中、私たちは顧客へのサポートを強化し、社員の雇用を守り、デジタル化を加速させました。結果として、私たちは危機前よりもはるかに強固な会社になりました。

あなたの人生においても、失敗や苦難は「終わり」を意味するものではありません。それは、あなたがより高い次元へ進むための「準備期間」なのです。嵐が過ぎ去るのを待つのではなく、雨の中でどう踊るかを学ぶこと――それが人生を豊かにする秘訣です。

4. 「サービス精神」:自分を超えたもののために

Amexには「Blue Box Values」という価値観があり、その中心には「顧客への献身」があります。しかし、これは単なるビジネス用語ではありません。私の人生観そのものです。

人生で一番大事なことの四つ目は、「自分以外の誰かのために尽くすこと(Service to others)」です。

真のリーダーシップとは、他人に奉仕することから始まります。CEOとしての私の役割は、部下たちに命令を下すことではなく、彼らが最高のパフォーマンスを発揮できるように「道を切り拓く」ことです。

あなたが誰かの人生を少しでも良くすることができたなら、あなたの人生には意味が生まれます。それは家族への献身かもしれないし、地域社会へのボランティア、あるいは同僚への励ましの言葉かもしれません。自分の利益だけを追求する人生は、どれほど裕福であっても、最終的には虚しさを感じることになります。

幸せは、他者への貢献の「副産物」として得られるものです。自分が何を得たかではなく、自分が何を分かち合ったか。人生の最後に残るのは、その「与えたもの」の総和なのです。

5. 終わりなき学習と好奇心

私は40年近くこの会社にいますが、いまだに毎日新しいことを学んでいます。テクノロジーの変化、消費者の行動の変化、そしてリーダーシップの在り方。世界は常に動いています。

「常に学ぶ姿勢を忘れないこと」

これは、自分を陳腐化させないために、そして人生を飽きさせないために不可欠です。好奇心を持ち続ける人は、何歳になっても若々しく、魅力に溢れています。自分の限界を決めつけず、新しい挑戦を恐れないでください。私がCIO(最高情報責任者)からCEOになったように、キャリアの途中で全く異なる分野に飛び込む勇気を持つことが、時として想像もしなかった扉を開くことがあります。


結論:人生を定義するもの

ここまでお話ししてきたことをまとめると、人生で一番大事なことは、特定の「目標物」を達成することではなく、「どのようなプロセスで人生を歩むか」という姿勢そのものにあります。

  1. People(人): 誰を愛し、誰を尊重し、誰と共に成長するか。
  2. Integrity(誠実): 自分を裏切らない「正しく勝つ」強さ。
  3. Resilience(回復力): 嵐を成長の糧にする意志。
  4. Service(奉仕): 自分を超えた価値を他者に提供すること。
  5. Learning(学習): 世界に対して常に好奇心を持ち続けること。

人生は、クレジットカードの利用明細のような「数字の積み上げ」ではありません。それは、あなたが刻んだ「物語」の集合体です。あなたが困難にどう立ち向かったか、あなたがどれほど深く人を愛したか、そしてあなたがどれほど誠実に世界と向き合ったか。

私のCEOとしての仕事は、いつか終わりの日が来ます。しかし、「ステファン・スケリ」という人間の物語は、私が他者の人生にどのような影響を与えたかによって語り継がれるでしょう。

皆さんも、自分自身の「人生で一番大事なこと」を見失わずに、毎日を大切に歩んでください。たとえ今日が困難であっても、誠実さとレジリエンスを持っていれば、明日は必ず今日よりも良くなります。

アメリカン・エキスプレスが世界中で信頼されているように、あなた自身も、あなたを取り巻く人々にとっての「信頼の証」となることを願っています。