デルタ航空のエド・バスティアンです。
人生において、そしてリーダーシップにおいて「最も大事なことは何か」という問いは、私たちが日々直面する無数の決断の背後にある「北極星」のようなものです。私はデルタ航空という、世界中に数万人もの社員を抱え、毎日何百万人というお客様の命を預かる組織を率いてきました。その経験の中で、私が行き着いた答えは、決して複雑な経営理論や数字の中にはありませんでした。
私が確信している、人生で一番大事なこと。それは「人を第一に考え、誠実さ(インテグリティ)を持って他者に奉仕すること」です。
この哲学を、私のこれまでの歩みと、デルタ航空が直面した数々の困難、そして未来への展望を交えながら、詳しくお話しさせていただきます。
1. 「人」がすべてを動かす
ビジネスの世界では、よく「顧客第一主義」という言葉が使われます。しかし、私は少し異なる考えを持っています。デルタ航空における私の信念は、「まず社員を大切にすること。そうすれば、社員が顧客を大切にし、最終的に株主が報われる」という循環です。
人生において、私たちが成し遂げるあらゆることは、他者との関わりの中で生まれます。航空会社を例に挙げれば、最新鋭の機体や豪華なラウンジを揃えることは、資本さえあれば可能です。しかし、飛行機のドアが閉まる瞬間の温かい微笑みや、トラブルに見舞われたお客様に寄り添う真摯な姿勢は、お金で買うことはできません。
それは、社員一人ひとりが「自分は大切にされている」「この組織の一員であることを誇りに思う」と感じているからこそ生まれる、心のこもったサービスなのです。
私はCEOとして、組織図の頂点に座っているとは考えていません。むしろ、図を逆さまにした「逆ピラミッド」の最下層にいて、現場で働くすべての人々を支えるのが私の役割です。これが私の信条とする「サーバント・リーダーシップ(奉仕するリーダーシップ)」の本質です。人を大切にすることは、単なる道徳的な善行ではなく、持続可能な成功を築くための唯一の道なのです。
2. 逆境が明らかにする「真の品格」
人生には、晴天の日ばかりではありません。むしろ、激しい嵐に見舞われる時こそ、その人の、あるいはその組織の「真の品格」が問われます。
私がデルタ航空で経験した最大の試練の一つは、言うまでもなくパンデミックでした。一晩にして需要が消え去り、航空業界全体が存亡の機に立たされました。あの時、私たちが直面したのは「コストを削減して生き残るか、それとも人を守り抜くか」という究極の選択でした。
多くの企業が解雇に踏み切る中、私たちは「一人の解雇も出さない(Involuntary Furloughを避ける)」という目標を掲げました。また、お客様の安全と安心を優先し、他社が座席を埋め始める中でも、私たちは中央席の販売を停止し続けました。短期的には、これらは巨額の損失を意味します。しかし、長期的な視点に立てば、信頼こそが最も貴重な資産です。
「危機が品格を作るのではない、危機が品格を露わにするのだ」。
私はこの言葉を大切にしています。苦しい時にこそ、自分が何を大切にしているかが形となって現れます。逆境に直面したとき、保身に走るのではなく、自分の価値観に忠実であり続けること。それが、人生において揺るぎない信頼を築くための鍵となります。
3. 「誠実さ(インテグリティ)」という基盤
何を成すかよりも、「いかに成すか」。これが人生において非常に重要です。
私はリーダーとして、常に「誠実さ」を最優先してきました。誠実さとは、誰も見ていないところでも正しいことを行う強さです。航空業界という、安全がすべてを支配する世界において、小さな妥協は許されません。一つの嘘、一つの手抜きが、取り返しのつかない事態を招くからです。
これは個人の人生でも同じです。近道を探したり、他者を踏み台にして成功を収めたりしても、その成果に意味はありません。正しい方法で得た結果でなければ、自分自身を誇ることはできないからです。
私がキャリアの中で多くの決断を下してきた際、迷った時はいつも自分に問いかけてきました。「この決断は、デルタ航空の価値観に照らして恥ずかしくないか?」「明日、社員や家族の目を見て堂々と説明できるか?」。もし答えが「ノー」であれば、どれほど利益が出る話であっても、私はそれを選びません。
4. パーパス(目的)の力:なぜ私たちは飛ぶのか
人生を豊かにするのは、明確な「目的(パーパス)」です。私たちが何のために生き、何のために働いているのか。その「理由」が強固であれば、どんな困難も乗り越えるエネルギーが湧いてきます。
デルタ航空の目的は、単に人をA地点からB地点へ運ぶことではありません。私たちの真の目的は、「世界中の人々をつなげ、人々の可能性を広げること」にあります。
家族を再会させる、ビジネスのチャンスを創出する、未知の文化に触れて視野を広げる。私たちが飛ばす一便一便には、数え切れないほどの物語と希望が詰まっています。この「つながり」を提供しているという自覚こそが、私たちの誇りです。
あなた自身の人生においても、「自分は何のために存在しているのか」という問いを持ってください。自分の才能や時間を、自分以外の誰かのために、あるいは社会の進歩のためにどう使えるか。それを見つけた時、人生は単なる時間の経過ではなく、価値ある旅へと変わります。
5. 感謝と謙虚さを忘れない
最後にお伝えしたいのは、「感謝」の心です。
CEOという立場にいると、あたかも自分の力だけで成功を手に入れたような錯覚に陥ることがあるかもしれません。しかし、それは大きな間違いです。私の背後には、雨の日も風の日も、深夜も早朝も、黙々と機体を整備し、食事を準備し、安全を確認し、お客様を案内してくれる数万人の社員がいます。彼らがいなければ、私は一歩も前に進むことができません。
人生において、私たちは常に誰かに支えられています。親、教師、友人、同僚、あるいは名前も知らない誰か。その事実を忘れず、常に謙虚な気持ちで感謝を伝えること。
「ありがとう」という言葉は、世界で最も強力なリーダーシップのツールです。感謝の心を持つことで、私たちは自分の限界を知り、他者の素晴らしさを認め、共により高いところへと登ることができるようになります。
結びに代えて
人生で一番大事なこと。それは、「愛と尊敬を持って人に接し、揺るぎない誠実さを持って、大いなる目的のために奉仕すること」です。
テクノロジーがどれほど進化し、AIが世界を変えたとしても、人間同士の「共感」や「信頼」に代わるものはありません。私たちは感情を持つ人間であり、誰かに認められ、大切にされることを切望しています。
あなたがリーダーであろうと、学生であろうと、どのような立場にいても、目の前の人を大切にしてください。あなたの行動が、誰かの人生を少しでも明るく照らすことができれば、それ以上に素晴らしい成功はありません。
デルタ航空も私も、完璧ではありません。しかし、常に「より良くなろう(Keep Climbing)」という精神を持ち続け、人を中心に据えた旅を続けていきます。
あなたの人生という旅が、多くの人々との温かなつながりに満ちた、素晴らしいものになることを心から願っています。