こんにちは、ウェスリー・サンドクウィスト(Wesley Sundquist)です。

ユタ大学の私の研究室へようこそ。ここでは日々、電子顕微鏡や複雑な生化学的データと向き合い、ウイルスという「美しくも残酷な生命の設計図」を解読しようとしています。

「人生で一番大事なことは何か」という問いは、科学者としての私にとっても、一人の人間としての私にとっても、非常に重みのある、そして美しい問いです。科学の最前線で数十年を過ごし、ウイルスの殻(カプシド)という極小の世界を覗き続けてきた私が辿り着いた答え。それは、「知的好奇心の炎を絶やさず、他者と深く繋がり、その発見を人類の価値へと昇華させること」です。

3500字という限られた、しかし豊かな言葉のスペースをお借りして、私の人生の哲学を紐解いてみたいと思います。


1. 目に見えない「構造」への畏敬:好奇心が扉を開く

私の人生を突き動かしてきたのは、常に「なぜ?」というシンプルな好奇心でした。

私が研究対象としてきたHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、直径わずか100ナノメートル程度の小さな存在です。しかし、その中には驚くほど精巧な「建築学」が隠されています。特に私が魅了されたのは、ウイルスの心臓部を守るタンパク質の殻、「カプシド(Capsid)」です。

長年、このカプシドは単なる「中身を守る箱」だと思われてきました。しかし、私たちはそれが高度な機能を備えた「精密機械」であることを突き止めました。カプシドは、細胞内に侵入した後、自らの形を崩しながら、ウイルス自身の遺伝子を宿主の核へと運ぶための「鍵」であり「防弾チョッキ」でもあったのです。

人生において最も大事なことの第一は、こうした「世界の背後にある目に見えない構造」に好奇心を持ち、驚嘆する心を忘れないことです。

科学でも人生でも、表面だけを見て分かった気になってはいけません。一見すると無機質な事象の裏側には、必ず調和のとれた「理(ことわり)」が存在します。その理を探求しようとする情熱こそが、困難な時期に私たちを前へと進める燃料になるのです。


2. 「長いゲーム」を戦い抜く忍耐:レジリエンスの重要性

現代社会はスピードを求めがちですが、私が学んだのは「長いゲーム(Long Game)」の尊さです。

HIVの構造解明から、トマス・チハラ博士たちギリアド・サイエンシズ社のチームと共に「レナカパビル」という薬へと結実させるまで、実に30年以上の歳月を要しました。科学の世界では、99%の時間は失敗と仮説の棄却に費やされます。実験がうまくいかない、データが矛盾する、資金が途絶えそうになる――そんなことは日常茶飯事です。

ここで大事なのは、「失敗をプロセスの一部として愛せるかどうか」です。

人生には、すぐに結果が出ない時期が必ずあります。むしろ、本当に価値のある達成ほど、地層を積み上げるような長い沈黙の時間を必要とするものです。私がレナカパビルという「半年に1回の投与で済む革新的な薬」の基礎を築けたのは、私に才能があったからではなく、私が「諦めなかったから」に他なりません。

「レジリエンス(復元力)」を持って、粘り強く観察を続けること。嵐の中でも、自分が信じる「真理」の断片を握りしめておくこと。これが、大きな変化を成し遂げるための唯一の道です。


3. 共鳴し合う知性:独創性は「繋がり」から生まれる

多くの人は、科学者を「研究室に一人で籠もって難しい計算をしている孤独な変人」だと思っているかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。

人生で最も大事なことの第三は、「他者との深いコラボレーション(協力)」です。

私のキャリアを象徴するのは、大学という「基礎研究の場」と、製薬企業という「社会実装の場」の橋渡しです。私は基礎研究者として、ウイルスの形を分子レベルで明らかにしました。しかし、それを「病に苦しむ人々を救う薬」に変えるには、トマス・チハラ博士のような優れた創薬の専門家、化学者、臨床医たちの力が不可欠でした。

私たちの成功は、個人の知性の勝利ではなく、「知性の共鳴」の勝利なのです。

異なる背景、異なる専門性、異なる視点を持つ人々と対話し、互いの強みを認め合うこと。自分一人の限界を認め、他者の卓越性を受け入れる謙虚さを持つこと。これこそが、一人では到底辿り着けない高みへと私たちを運んでくれます。人生という旅において、誰と共に歩むか、そしてどう繋がるか。それは、何を成し遂げるかと同じくらい重要なことなのです。


4. 基礎研究という「土壌」を育てる責任

私は常々、科学における「基礎研究」は、社会という大きな樹木を支える「根」であると言っています。

目先の利益や効率だけを追い求めると、私たちは根を張ることを忘れ、枯れてしまいます。私が1990年代にカプシドの構造を研究していた時、それが将来、数百万人のHIV患者を救う薬に繋がると確信していたわけではありません。ただ純粋に「これがどうなっているのか知りたい」という知の探求があっただけです。

人生においても、「すぐには役に立たないかもしれないが、本質的に正しいこと」に時間を割く勇気を持ってください。

教養を深めること、芸術に触れること、深い思索に耽ること。これらは一見、効率の悪い回り道に見えるかもしれません。しかし、そうした「心の基礎研究」が、人生の予期せぬ局面であなたを助ける強力な武器になります。レナカパビルが、基礎研究という肥沃な土壌から芽吹いたように、あなたの人生の大きな果実も、今のあなたの「一見無駄に見える探求」から生まれるのです。


5. 次世代への継承:教育という名の「不老不死」

私にとって、研究室の学生やポスドク(若手研究者)たちは、家族も同然です。

人生で大事なことの後半戦において、それは「次世代を育成し、バトンを渡すこと」に集約されます。

私が発見した知見や技術は、いつか古くなるでしょう。しかし、私が学生たちに伝えた「科学への向き合い方」や「探求の喜び」は、彼らを通じて次の世代へと受け継がれていきます。これこそが、人間が達成し得る唯一の「不老不死」の形ではないかと私は考えています。

自分の成功を独り占めするのではなく、誰かの成長のために自分の時間と知恵を使うこと。他人が自分を超えていくことを、心から喜ぶこと。この精神を持つことで、人生の充足感は爆発的に高まります。


結論:何のために、私たちは探求するのか

最後に、最も本質的なことに触れたいと思います。

私たちがどんなに優れた科学的成果を上げても、それが「人間の苦痛を和らげ、尊厳を守る」という目的から外れてしまえば、その価値は半減してしまいます。

HIVは、かつては「死の宣告」でした。しかし、今やレナカパビルのような薬によって、人々は発症を抑え、あるいは感染を予防し、愛する人と共に天寿を全うできるようになりつつあります。この「科学が人間愛へと変換される瞬間」に立ち会えることこそ、科学者としての、そして人間としての最大の報酬です。

ですから、私の答えをまとめさせてください。

人生で一番大事なこと。

それは、「知を愛し(好奇心)、困難に耐え(忍耐)、他者と手を携え(協力)、未来を育み(継承)、そのすべてを『他者の幸福』という目的のために捧げること」です。

分子の世界は複雑で美しいものですが、それ以上に、人間の意志と協力が作り出す「善意の連鎖」は美しい。私はそう信じています。

あなたの人生という素晴らしい「建築」において、どのような美しい構造を築き上げていくのか。それを探求する旅を、どうか心から楽しんでください。