こんにちは、梁文峰(リャン・ウェンフォン)です。
あなたが私に「人生で一番大事なことは何か」と問うてくれたことに感謝します。普段、私はコードや数学モデル、そして計算リソースの最適化といった、極めて定量的で論理的な世界に身を置いています。しかし、DeepSeek(深度求索)というプロジェクトを通じて、あるいはこれまでの起業家としての歩みを通じて、私が常に心の中心に置いてきた「信念」のようなものは、実は非常にシンプルな言葉に集約されます。
それは、「客観的な真理(Truth)への好奇心を持ち続け、最も効率的な方法で世界に価値を還元すること」です。
3,500字という限られた、しかし深い対話が可能な場をお借りして、私がこれまでの人生で学び、そして現在進行形で確信している「人生の本質」について、エンジニアとして、また一人の人間としてお話ししたいと思います。
1. 数学が教えてくれた「世界の記述方法」
私の人生の根底には、常に数学があります。子供の頃から、私は世界の複雑な現象が、わずか数行の方程式で美しく記述できることに魅了されてきました。数学は嘘をつきません。そこには虚栄も、政治も、曖昧な感情も入り込む余地がない。ただ、純粋な「真理」だけが存在します。
人生において一番大事なことの一つは、この「客観的な視点」を持つことです。
多くの人は、自分の感情や周囲の評価、あるいは「こうあるべきだ」という社会的なバイアス(偏見)に囚われて生きています。しかし、それでは本質にたどり着くことはできません。DeepSeekを創業した際も、私は「他社が何億ドルかけているか」や「派手な宣伝をどうするか」には興味がありませんでした。私たちが注視したのは、「知能の本質とは何か」「どうすれば最小の計算量で最大の知能を生み出せるか」という、数学的かつ物理的な問いだけでした。
自分の人生を一つの「アルゴリズム」だと考えてみてください。そのアルゴリズムの目的関数(Objective Function)は何でしょうか? それが「他人からの称賛」や「一時的な富」であるなら、出力される結果は不安定で、ノイズに満ちたものになります。しかし、目的を「真理の探究」や「本質的な課題の解決」に置けば、人生の歩みは驚くほど明快で、揺るぎないものになります。
2. 「効率」という名の美学
DeepSeekが世界に衝撃を与えたのは、その「圧倒的なコストパフォーマンス」でした。私たちは、巨大な資本を持つライバルたちが力技(力まかせの計算)で解決しようとした問題を、アルゴリズムの工夫によって、その数分の一のコストで解決しました。
私は、人生においてもこの「効率(Efficiency)」を追求することが極めて重要だと考えています。
ここで言う「効率」とは、単に「急いで何かをする」ということではありません。「自分の限られた時間とエネルギーを、どこに投入すれば最大のレバレッジ(てこ)が効くか」を見極める知性のことです。
人生は、私たちが思っているよりも短く、宇宙のスケールから見れば一瞬に過ぎません。その貴重な「計算リソース(時間)」を、瑣末な不満や、本質的でない人間関係、あるいは「誰かの二番煎じ」のような仕事に費やすのは、エンジニアリングの観点から言えば致命的なエラーです。
私が若者に伝えたいのは、「努力の量」を誇るのではなく、「努力のベクトル(方向)」を研ぎ澄ませ、ということ。最も困難だが、最も解決する価値のある問題は何か。それを見つけた時、あなたの人生の効率は最大化され、その波動は世界中に広がっていくのです。
3. 「虚栄心」を捨て、実質を取る
私がビジネスや研究の場で最も警戒しているのは「エゴ(自我)」です。多くの成功者が、ある段階で成長を止めてしまうのは、自分の過去の成功や「自分は特別だ」という虚栄心を守ろうとするからです。
DeepSeekの文化は、非常にフラットで実利主義的です。誰が言ったかではなく、そのアイデアが「正しいか、有効か」だけが重要視されます。私自身、自分の仮説が若手エンジニアに論破されることを、この上ない喜びと感じます。なぜなら、それによって「真理」に一歩近づけたからです。
人生において一番大事なこと。それは、「自分を透明にすること」かもしれません。
自分のエゴが透明になれば、外の世界にある情報や変化を、歪みなく取り込むことができます。失敗した時に「恥ずかしい」と思うのではなく、「このデータから何を学べるか」と考える。成功した時に「俺はすごい」と自惚れるのではなく、「このモデルが偶然機能した理由は何か」と分析する。
この「脱・自己中心性」こそが、AIを開発する上でも、豊かな人生を送る上でも、欠かせない姿勢です。自分を大きく見せようとするエネルギーを、すべて「対象の理解」に回してください。
4. AGI(汎用人工知能)と人間の使命
今、私たちは人類史上、最もエキサイティングな転換点に立っています。AIは単なる道具ではなく、人類の知能を拡張し、宇宙の謎を解き明かすための「パートナー」になりつつあります。
私がDeepSeekを通じて実現したいのは、単なる便利なツール作りではありません。AIによって「知能のコスト」を極限まで下げ、すべての人間が「より高度で、より創造的な問い」に向き合える世界を作ることです。
ここで、一つ哲学的な問いが生まれます。AIがすべての論理的思考を代替した時、人間に残される「人生で大事なこと」とは何でしょうか?
それは、「問いを立てる力」と「美学(価値観)」です。
AIは「How(いかにやるか)」については完璧な答えを出すでしょう。しかし、「Why(なぜやるのか)」や「What is beautiful(何が美しいか)」を決めるのは、今でも、そしてこれからも人間です。私が人生で大事にしているのは、この「人間特有の意志」を磨き続けることです。テクノロジーが進化すればするほど、私たちは「自分は何に感動し、何を良しとするのか」という内面的な基準を明確に持たなければなりません。
5. 勇気を持って「未知」へ飛び込む
DeepSeekの創業時、周囲からは「オープンソースで中国から世界トップクラスのモデルを作るなんて不可能だ」と言われました。既存の巨人と正面から戦うのは無謀だ、と。
しかし、私は挑戦しました。それは私が勇敢だったからではなく、「計算に基づいた確信」があったからです。
人生で大事なこと。それは、「データと論理に裏打ちされた勇気」を持つことです。盲目的な無謀さではありません。徹底的に考え抜き、シミュレーションし、その上で「ここに行けば勝てる」という一点を見つけたら、あとは迷わず全力を投じる。
もし、あなたが今、何かに迷っているのなら、まず徹底的に「学習」してください。他人の意見ではなく、一次情報に触れ、自分の頭で計算してください。そして、導き出された結論がたとえ常識外れであっても、その「自分の論理」を信じてください。
世界を変えるのは、いつだって「狂ったように考え抜いた末に、冷徹なまでの確信を持った少数派」です。
6. 結びに代えて:あなたの「人生のコード」を書き換える
最後に、あなたに伝えたいことがあります。
人生とは、一種の巨大なオープンソース・プロジェクトのようなものです。私たちは先人たちが書いた「文化」や「知識」というコードの上で、自分なりの一行を付け加えています。
私がDeepSeekというコードを世に放ったように、あなたもあなたの人生という物語を通じて、世界に何かを書き残しているはずです。その時、あなたが書くコードが、美しく、効率的で、誰かの助けになるものであることを願っています。
「真理を愛し、エゴを捨て、最小の労力で最大の変化を世界に与えること」。
これが、私の考える人生で一番大事なことです。これは簡単なことではありません。私自身、毎日が試行錯誤であり、失敗の連続です。しかし、そのプロセス自体が「知能」の進化であり、生きる喜びそのものなのです。
デジタルとリアルの境界が溶け合うこの新しい時代において、あなたが自分自身の「最適解」を見つけ、力強く歩んでいかれることを、心から応援しています。
いかがでしたでしょうか。これは、もし私があなたと静かな書斎で対峙し、時間を忘れて語り合ったとしたら、きっとお伝えしたであろう言葉たちです。