シリコンバレーの投資家であり、かつては死の淵を何度も覗き込んだ起業家、ベン・ホロウィッツとしてお答えします。

あなたが求めているのは、甘い砂糖菓子のような「幸福論」ではないはずだ。もしそうなら、私のところへは来ないだろう。あなたは「ハード・シングス(困難)」の正体を知りたがっている。

人生で一番大事なこと。

それを一言で言うならば、「誰であるか(Who You Are)」を、行動(What You Do)によって定義し続ける勇気だ。

3500字という長さは、ブログ記事一回分、あるいは短い章一つ分に相当する。私がこれまでの人生、そして多くの起業家たちとの死闘の中で学んだ「真実」について、少しばかり語らせてもらおう。


第1章:幻想を捨てること

まず、世の中で語られている「成功」や「人生」に関するアドバイスのほとんどは嘘だということから始めなければならない。

「情熱に従え」「好きなことをすれば成功する」「バランスが大事だ」――これらは全て、平時の、平和な時にしか通用しない戯言だ。

人生は、ビジネスと同じく、本質的には「戦時(Wartime)」だ。

物事は計画通りにはいかない。予期せぬ裏切りがあり、理不尽な不幸が襲い、自分の努力ではどうにもならない市場の暴落のような出来事が、あなたの人生のチャートを真っ赤に染め上げる瞬間が必ず来る。

私が「ハード・シングス」と呼ぶもの。それは、偉大なビジョンを描くことではない。夢を見ることでもない。

「ハード・シングス」とは、夢が悪夢に変わった時にどう振る舞うか、だ。

社員の給料が払えないと分かった土曜日の夜、冷や汗をかきながら天井を見つめる時間の長さだ。愛する人との関係が破綻しそうな時、あるいは自分の健康が脅かされた時、その「どうしようもない絶望」の中で、あなたがどう動くか。それが全てだ。

人生で最も大事なことは、平穏な時に何語るかではない。

嵐の真っただ中で、あなたが何をするかだ。

第2章:「ザ・ストラグル(苦闘)」を受け入れる

私は著書の中で「ザ・ストラグル(The Struggle)」について書いた。これは起業家だけでなく、生きるすべての人間に当てはまる。

ストラグルとは、あなたが自分の能力を疑い、過去の決断を呪い、未来が見えなくなる状態のことだ。

多くの人は、この「苦闘」を避けようとする。苦闘がない状態こそが幸せだと信じているからだ。

だが、それは間違いだ。

人生の最も重要な真実は、「苦闘の中にこそ、あなたの価値がある」ということだ。

簡単な問題を解いても、誰も評価しない。難しい問題、答えのない問い、逃げ出したくなるような状況。これらに直面した時、人は二種類に分かれる。

一つは、環境のせいにして被害者になる者。

もう一つは、「解決策は必ずある(There is always a move)」と信じ、泥の中を這ってでも前に進む者だ。

人生で大事なのは、完璧であることではない。打席に立ち続けることだ。

どんなにボロボロでも、どんなに勝算が低くても、明日もまた戦いの場に現れること。その執念だけが、あなたを「その他大勢」から区別する。

第3章:行動こそが本質である(What You Do Is Who You Are)

私はよく「文化とは何か」と問われる。会社における文化とは、壁に貼られたスローガンではない。

「あなたが何をするか、それがあなた自身だ(What You Do Is Who You Are)」。これが私の哲学の核心だ。

人生において、「私は優しい人間だ」と思っていることには何の意味もない。

重要なのは、他人が失敗した時、あるいはあなたが損をすると分かっている時に、実際に手を差し伸べたかどうかだ。

「私は誠実だ」と信じることには価値がない。

重要なのは、誰も見ていないところで、あるいは真実を話せば自分が不利になる場面で、嘘をつかずにいられたか、だ。

私たちは、自分の意図(インテンション)で自分を評価しがちだ。「悪気はなかった」「やるつもりだった」。

だが、世界は、そして他人は、あなたの行動(アクション)だけであなたを評価する。

人生で最も大事なことは、自分の「意図」と「行動」のギャップを埋めることだ。

あなたが大切にしたい価値観があるなら、それを言葉にするのではなく、極限状態での行動で示さなければならない。武士道のようなものだ。あるいは、私が愛するヒップホップのリリックにあるような「リアル」さだ。

口先だけの哲学は、最初の銃声が鳴った瞬間に消え失せる。残るのは、体に染みついた行動習慣だけだ。

第4章:真実(The Truth)と向き合う

リーダーとして、あるいは一人の人間として、最も難しいことの一つは「真実を直視すること」だ。

悪いニュースは、放っておくとどんどん悪くなる。

「まだ大丈夫だ」「なんとかなるだろう」という楽観的なバイアスは、人生において致命傷になる。

自分自身の現状について、残酷なほど正直であること。

自分のスキルが足りていないこと、人間関係が壊れていること、今の方向性が間違っていること。これらを認めるのは痛みを伴う。プライドが傷つく。

だが、真実だけが、あなたを自由にできる。

私がラウドクラウド(かつての会社)で破綻寸前だった時、投資家や社員に「すべて順調だ」と嘘をつくこともできた。だが、私は「我々は死にかけている」と伝え、その上で生き残る策を共に考えた。

自分自身に嘘をつかないこと。鏡に映る自分を直視し、「今の自分はクソだ。だが、ここから這い上がる」と言える強さ。

この知的正直さ(Intellectual Honesty)がなければ、人生の舵取りはできない。

第5章:誰と共に歩むか

ここまで「個」の強さについて語ってきたが、人生は一人では完結しない。

シリコンバレーでは「ネットワーク」という言葉が安っぽく使われるが、私が言いたいのはそんな薄っぺらい名刺交換のことではない。

大事なのは、「キツネ穴(Foxhole)」に誰と一緒に入るかだ。

砲弾が飛び交い、死が迫るような状況で、背中を預けられる人間は誰か。

そして、あなた自身が、誰かにとってそういう人間であるか。

私のパートナーであるマーク・アンドリーセンとは、長年共に戦ってきた。私たちは常に意見が合うわけではない。むしろ激しく対立することもある。

だが、相手が「自分の利益よりも、共有するミッションや関係性を優先する」という絶対的な信頼がある。

人生の豊かさは、銀行口座の残高ではなく、葬式の時に何人の友人が本気で泣いてくれるかで決まる、という古い言葉があるが、あながち間違いではない。

ただし、それは「仲良しクラブ」を作ることではない。

困難を共に乗り越え、互いの弱さを認め合い、それでも信頼を裏切らなかったという「歴史」を共有する仲間を持つことだ。

そのような人間関係を築くには、まずあなたが先にギブ(与えること)し、先にリスクを取り、先に信頼しなければならない。

第6章:貢献(Contribution)へのシフト

最後に、「情熱」について訂正しておきたい。

若い頃は「自分の情熱は何か」と探し求める。自分は何が好きで、何になりたいのか。

だが、ある年齢、ある段階を超えたら、視点を変えなければならない。

「自分は何を得たいか」ではなく、「自分は何を貢献できるか」へ。

世界は、あなたの情熱になど興味がない。市場はあなたがどれだけ苦労したかなど気にしない。

世界が気にするのは、「あなたがどんな問題を解決してくれるか」だけだ。

あなたが持っているスキル、経験、強みを使って、他人や社会の痛みをどう取り除くか。

私の友人はよく言う。「自分のエゴの外に出ろ」と。

人生で一番大事なことは、自分自身の充足感を追い求めることではなく、他者の人生にポジティブなインパクトを与えることだ。

逆説的だが、自分の情熱を追いかけるのをやめて、他への貢献に集中した時、初めて深い意味での「やりがい」や「情熱」が後からついてくる。

結論:明日、何をするか

長い話になったが、まとめよう。

人生で一番大事なこと。

それは、幸福な状態を目指すことではない。

それは、困難な現実(ハード・シングス)から目を逸らさず、自分自身の行動で自分の価値観を証明し、信頼できる仲間と共に、世界に対して何か価値あるものを築き上げることだ。

簡単な道はない(There is no silver bullet)。あるのは鉛の弾丸だけだ。

魔法の杖はない。あるのは、泥臭い毎日の決断と行動だけだ。

だが、恐れることはない。

君が今、どんなに深い闇の中にいたとしても、解決策は必ずある。

呼吸をしろ。状況を分析しろ。そして、最初の一歩を踏み出せ。

君の人生(ストーリー)は、君がどう感じたかではなく、君が何をしたかで書かれるのだから。

さあ、仕事に戻ろう。

ベン・ホロウィッツ


あなたへのネクストステップ

私のこの哲学を踏まえて、今のあなたの状況(例えば、仕事での悩みや、人間関係、あるいは新しい挑戦)に対して、「ホロウィッツならどうアドバイスするか」を具体的にシミュレーションしてみませんか?

もしよければ、今あなたが直面している「ハード・シングス(困難)」を教えてください。3つほど具体的な戦術を提案します。