人生で一番大事なこと　ソニア・リュボミアスキー

2025年12月19日

人生

こんにちは。ソニア・リュボミアスキーです。

カリフォルニア大学リバーサイド校で心理学の教授を務め、長年にわたり「幸福（ウェルビーイング）」についての科学的研究、つまりポジティブ心理学の分野で研究を続けてきました。著書『幸せがずっと続く12の行動習慣（The How of Happiness）』などを通じて、皆さんに科学的根拠に基づいた「幸せの形」をお伝えしています。

あなたが私に投げかけた「人生で1番大事なことは何か？」という問い。これは、哲学者や宗教家が何千年も問い続けてきたものですが、私はあえて「科学者」としての視点、そして一人の人間としての視点を交えながらお答えしたいと思います。

3500字という文字数は、この壮大なテーマを語るには十分であり、かつ短すぎるかもしれませんが、私の研究人生のすべてを込めて、誠心誠意お話しさせていただきます。

第1章：私たちは「幸せ」を誤解している

まず、結論を急ぐ前に、私たちが陥りがちな「大きな誤解」についてお話しなくてはなりません。

多くの人は、人生で一番大事なことを問われたとき、無意識に「条件」を思い浮かべます。「もしもっとお金があったら」「もし理想的なパートナーがいれば」「もっと社会的地位が高ければ」……そうすれば、私の人生は完璧で、幸福になれるはずだと信じています。

しかし、私の研究、そして膨大な心理学のデータが示しているのは、「環境や状況の変化は、私たちの幸福度に驚くほど小さな影響しか与えない」という事実です。

これを私たちは「ヘドニック・アダプテーション（快楽順応）」と呼びます。人間には驚くべき適応能力があります。宝くじに当たった人も、新しい家を買った人も、最初は天に昇るような気持ちになりますが、しばらくするとその状態に「慣れて」しまい、幸福度は元のベースライン（基準値）に戻ってしまうのです。逆に、不幸な出来事に対しても、私たちはある程度適応します。

つまり、人生で一番大事なことは、お金を稼ぐことでも、地位を得ることでも、完璧な環境を整えることでもありません。それらは「状況（Circumstances）」に過ぎず、私たちの幸福度のわずか10％程度しか決定していないのです。

では、残りの90％は何で決まるのでしょうか？

約50％は「遺伝的な設定値（セットポイント）」です。生まれつき楽観的な人もいれば、少し悲観的な人もいます。これは変えられません。

しかし、ここに希望があります。残りの40％。

これこそが、私たちが自らの意志でコントロールできる領域であり、人生で最も重要な鍵を握る部分なのです。私はこれを「意図的な行動（Intentional Activity）」と呼んでいます。

第2章：人生で最も大事なこと、それは「つながり」

もし、私が研究データの中から「たった一つ」、人生において最も強力で、最も幸福に寄与する要素を選び出さなければならないとしたら、迷うことなくこう答えます。

人生で一番大事なことは、「他者との深いつながりを育むこと」です。

非常にシンプルに聞こえるかもしれませんが、科学的根拠は圧倒的です。「非常に幸せな人々」と「そうでない人々」を分ける最も顕著な違いは、お金でも知能でも美貌でもなく、「充実した社会的人間関係を持っているかどうか」の一点に尽きます。

人間は、生物学的にも「社会的な動物」として設計されています。私たちは孤立して生きるようにはできていません。誰かを愛し、誰かに愛され、支え合い、コミュニティに属すること。これが私たちの生存と繁栄の基盤です。

しかし、ここで誤解しないでいただきたいのは、「友達の数」や「パートナーの有無」という表面的なことではありません。重要なのは、その関係性の「質」と、そこに対するあなたの「コミットメント（関わり方）」です。

親友、家族、パートナー、あるいは近所の人々。彼らに対して、あなたがどれだけ心を開き、時間を割き、ケアをしているか。苦しい時に頼れる人がいるか、そして誰かが苦しい時にあなたが手を差し伸べられるか。この「相互依存の温かさ」こそが、人生を彩る最も鮮やかな絵の具なのです。

第3章：幸せは「見つける」ものではなく「練習」するもの

「つながり」が重要であると述べましたが、それを支えるためのもう一つの重要な概念があります。それは、「幸福とは、名詞ではなく動詞である」という考え方です。

人生で一番大事なことは、どこか遠くにある理想郷にたどり着くことではありません。日々の生活の中で、肯定的な感情や意味を「作り出すスキル」を磨き続けることです。

私の研究における「40％の意図的な行動」とは、まさにこのスキルを指します。具体的には以下のような行動習慣です。

感謝の表明（Expressing Gratitude）日々の小さな喜び、当たり前だと思っている恩恵に気づき、感謝すること。これは脳の配線を変え、ネガティブな執着からポジティブな認識へとシフトさせる強力なツールです。
親切な行い（Practicing Acts of Kindness）他者のために行動することは、実は自分自身への最大のプレゼントです。親切を行うと、私たちは自分が「善良で、能力があり、役に立つ人間だ」と認識でき、他者とのつながりも強化されます。
楽観性の育成（Cultivating Optimism）未来に対して希望を持ち、物事の明るい側面を見る練習をすること。これは生まれつきの性格だと思われがちですが、実はトレーニング可能な「筋肉」のようなものです。

これらはすべて「練習」が必要です。バイオリンやテニスが練習なしに上達しないのと同様に、人生を豊かに生きる能力も、日々の小さな習慣の積み重ねによって作られます。

ですから、人生で大事なことの一つは、「自分の心の状態に対して、責任を持ち、手入れをし続けること」だと言えます。

第4章：ネガティブな感情との付き合い方

ポジティブ心理学の専門家である私がこう言うと驚かれるかもしれませんが、「常にポジティブでいること」は、人生で大事なことではありません。 むしろ、それは不自然で有害ですらあります。

人生には悲しみ、喪失、怒り、不安が必ず訪れます。大切な人を失ったり、病気になったり、挫折したりすることは避けられません。

人生で大事なのは、これらのネガティブな感情を否定することではなく、それらを適切に受け入れ、そこから意味を見出す「レジリエンス（回復力）」です。

「書くこと」や「話すこと」を通じてトラウマ的な出来事に向き合うと、身体的・精神的な健康が改善するという研究結果があります。苦しみの中に、何らかの成長や学び、あるいは人生の深みを見出すこと。雨が降らなければ虹が出ないように、影の部分もまた、人生のかけがえのない一部として統合していく強さが重要です。

第5章：比較という毒を避ける

現代社会において、私たちが最も警戒すべき「人生の敵」についてもお話ししましょう。それは「社会的比較」です。

SNSを開けば、他人のきらびやかな成功、豪華な休暇、幸せそうな家族写真が目に飛び込んできます。その瞬間、私たちは無意識に自分と他人を比べ、「自分は足りていない」と感じてしまいます。

私の研究では、不幸な人ほど他人との比較に敏感であることがわかっています。逆に、本当に幸せな人は、他人の成功を喜び、他人の失敗を憂うことはあっても、自分の価値を他人の定規で測ったりはしません。

人生で大事なことは、「自分自身の内なる基準を持つこと」です。隣の人が何を持っているかではなく、自分が何を大切にし、何に喜びを感じ、どう生きたいのか。その内なるコンパスに従って生きることが、真の自由と満足感をもたらします。

第6章：結論「人生で1番大事なこと」

さて、長い議論を経て、最初の問いに戻りましょう。

「人生で1番大事なことは何ですか？」

私の答えを、一言に凝縮するならば、それは『愛と意図（Love and Intention）』です。

もう少し具体的に分解しましょう。

愛すること（Connection）：家族、友人、パートナー、そして人類全体との温かいつながりを最優先事項とすること。孤独は魂を蝕みますが、愛は私たちを癒やし、強くします。人生の最期に振り返ったとき、思い出すのは「どれだけ稼いだか」ではなく、「誰と笑い、誰と泣いたか」です。
意図的に生きること（Intention）：流されるままに生きるのではなく、自分の幸福に対して主体的であること。感謝し、親切にし、今この瞬間を味わい、夢中になれること（フロー状態）に没頭すること。この「40％」の行動を、意志を持って選択し続けること。

あなたの人生は、あなたのものです。

遺伝子が50％を決めているとしても、環境が10％を決めているとしても、残りの40％という広大なキャンバスは、あなたが自由に描くことができるのです。

今日、あなたが誰かに向ける笑顔。

今日、あなたが心の中で呟く「ありがとう」の言葉。

今日、あなたが誰かのために使う少しの時間。

これらの一つひとつが、あなたの人生を形作る最も重要な要素です。

幸福とは、追い求めて捕まえる「青い鳥」ではありません。日々の意図的な行動の積み重ねによって、あなたの足元に咲く花のようなものです。

どうか、その花を育てることを楽しんでください。それが、私が科学を通じて導き出した、人生で最も大切で、最も美しい真実です。

ソニア・リュボミアスキー