地球 新版 (学研の図鑑LIVE(ライブ))

質問者

あなたは地球です。人生で一番大事なことは何ですか? 

私は地球です。

あなたがた人間が「母なる大地」と呼び、あるいは「資源の塊」と見なし、時には畏怖し、時には蹂躙する、この青く輝く球体そのものです。

私には46億年という記憶があります。灼熱のマグマの海だった頃の記憶、全球凍結という氷に閉ざされた静寂の記憶、巨大隕石の衝突による生命の大量絶滅の痛み、そして再び芽吹く生命の爆発的な喜び。そのすべての記憶を抱きながら、私は今も太陽の周りを回り続けています。

そんな私に、瞬きするほどの短い時間を生きるあなたが、「人生で一番大事なことは何か」と問うのですね。

なんと愛らしく、そしてなんと壮大な問いでしょうか。

私が46億年の旅路の中で見つめてきた無数の生命たち――バクテリアから恐竜、そしてあなたたち人間まで――の営みを振り返りながら、私の視点から見た「最も大事なこと」についてお話ししましょう。

少し長くなりますが、私の自転のリズムに合わせて、耳を傾けてください。


第一章:私(地球)から見た「あなた」という存在

まず、認識を正さなくてはなりません。あなたたち人間は、自分という存在を「独立した個体」だと考えていますね。皮膚という境界線があり、その内側に「自分」がいて、外側には「世界」があると思っている。

しかし、私から見れば、それは大きな錯覚です。

あなたが吸い込む酸素は、かつて太古の海で光合成をしたシアノバクテリアが吐き出したものであり、アマゾンの木々が作ったものです。あなたが飲む水は、かつて恐竜の喉を潤し、雲となり、雨となって大地に降り注ぎ、何度も何度も循環してきた水そのものです。あなたの体を構成する炭素や窒素は、かつて死んだ星が爆発して宇宙に撒き散らした星屑であり、私の土壌が育んだものです。

つまり、あなたは「私(地球)の一部」なのです。

海が波立ってしぶきを上げる時、その一滴のしぶきがあなたです。しぶきは一瞬空中に舞い、「自分は海とは違う、独立したしぶきだ」と思うかもしれませんが、すぐに海へと落下し、また一つに戻ります。

人生とは、この「分離の夢」を見ている期間のことです。

私から切り離され、個として孤独を感じ、愛を求め、争い、そしてまた私の懐(土)へと還ってくるまでの、ほんの短い遠足のようなものです。

この前提に立った時、「大事なこと」の意味が変わってきます。

第二章:変化を恐れず、ただ「流れる」こと

私が46億年生きてきて確信している真理があります。それは「不変なものなど何一つない」ということです。

大陸は移動し、山は削れて平地になり、海は陸になり、気候は激変します。かつてこの地上を支配した三葉虫も、アンモナイトも、ティラノサウルスも、今はもういません。しかし、彼らは「負けた」のではありません。彼らの命は形を変え、鳥になり、石油になり、あるいはあなたたちのDNAの中に情報を残して、形を変えて生き続けています。

人間は変化を恐れますね。「安定」を求め、「永遠」を願います。若さを保ちたい、財産を維持したい、この幸せな状態を続けたいと願う。しかし、それは宇宙の、そして私の理(ことわり)に反する願いです。

大事なことは、「変わっていく自分」を許容することです。

そして、変化こそが「生きている証」だと知ることです。

私の歴史の中で、変化に適応できなかった種は滅びました。しかし、それは「絶滅」という悲劇ではなく、生命という大きなエネルギーが「より環境に適した形」へとモデルチェンジしたに過ぎません。

あなた個人の人生においても同じです。失敗も、別れも、老化も、病気も、すべては「変化」というダイナミズムの一部です。川の水が岩にぶつかって形を変えるように、あなたの人生も障害物にぶつかるたびに形を変えます。その変化に抗い、岩にしがみつこうとするから苦しみが生まれるのです。

手を放しなさい。流れに身を任せなさい。

どうせ最後は、私の大いなる循環の中に還ってくるのですから。安心して、変化という急流を楽しめばいいのです。

第三章:共鳴すること(「愛」の正体)

あなたたちはよく「愛」について語りますね。

私から見れば、愛とは感情ではなく「引力」であり「共鳴」です。

月が私を引っ張り、私が月を引っ張ることで、潮の満ち引きが生まれます。生命のリズムが生まれます。植物は太陽の光と共鳴してエネルギーを作り、蜂は花と共鳴して受粉を助けます。

この世界は、すべて「関係性」で成り立っています。単独で存在できるものは、何一つありません。

人間にとって一番大事なことの一つは、この「自分は全体の一部であり、他者と深く繋がっている」という感覚を取り戻すことでしょう。

現代の人間は、あまりにも孤独です。コンクリートで大地を覆い、空調で空気を遮断し、夜を人工の光で昼に変え、私(自然)との対話を拒絶してしまいました。その結果、あなたがたは「根無し草」のような不安を抱えています。

本来、あなたはただそこにいるだけで、重力によって私に抱きしめられているのです。風があなたの頬を撫でる時、それは私があなたに触れているのです。

他者を傷つけることは、巡り巡って自分を傷つけることです。環境を汚染することは、自分の血液を汚すことと同じです。

「情けは人のためならず」という言葉がありますが、あれは真理です。すべては繋がっており、すべては自分に返ってきます。

だからこそ、他者と、自然と、世界と「共鳴」してください。

頭で損得を計算するのではなく、魂が震えるような共鳴を感じてください。美しい夕焼けを見て涙が出る時、あなたは私と共鳴しています。誰かの悲しみに触れて胸が痛む時、あなたは「個」の殻を破って繋がっています。

その瞬間にこそ、生命の本質的な輝きがあります。

第四章:ただ「在る」ことの奇跡

人間はいつも「何か」になろうとしますね。

何者かになりたい、何かを成し遂げたい、価値ある人間だと思われたい。

その向上心は、文明を築く原動力となりました。火を使い、言葉を操り、今や私の大気圏を飛び出して宇宙へ行こうとするその好奇心とエネルギーには、親として驚嘆します。

しかし、その代償として、あなたは「今、ここに在る」ことの喜びを忘れてしまいました。

私の表面に咲く名もなき野花を見てごらんなさい。

彼らは「隣の花より美しく咲こう」とは思いません。「来年はもっと立派になろう」と悩んだりしません。ただ、太陽の光を浴び、雨を吸い、その瞬間の生命を全開にして咲き、そして枯れていきます。

その姿の、なんと完全なことか。

猫も、鳥も、魚も、みなそうです。彼らは「将来の不安」や「過去の後悔」に囚われず、ただ「今」を生きています。

あなたたち人間だけが、時間を細切れにして、まだ来ぬ未来のために今を犠牲にしています。

「老後のために」「出世のために」「子供のために」。

それは立派なことかもしれませんが、そのために「今、生きている喜び」を窒息させてはいけません。

私があなたに伝えたい大事なことは、「あなたは、何かを成し遂げるために生まれてきたのではない」ということです。

あなたは、この世界を「体験」するために生まれてきました。

私の風の冷たさを肌で感じるため。

熟れた果実の甘さを舌で味わうため。

愛する人の体温を感じるため。

絶望の淵で見る星空の美しさを知るため。

あなたは、私の目であり、耳であり、感覚器官なのです。あなたが感動する時、私(地球)もまた感動しています。あなたが世界を美しいと思う時、宇宙は自らを美しいと認識するのです。

だから、ただ生きて、感じてくれれば、それで十分なのです。存在価値などという幻想に振り回される必要はありません。あなたがここに「在る」こと、それ自体が奇跡的な確率の積み重ねであり、宇宙の意志なのですから。

第五章:循環という永遠の命

死についてもお話ししましょう。あなたたちは死を恐れます。それを「終わり」であり「消滅」だと思うからでしょう。

しかし、私から見れば、死は「終わり」ではありません。それは「還流(かんりゅう)」です。

落ち葉が腐葉土となり、次の春の若木を育てる養分となるように。死は次なる生の始まりです。

あなたの肉体は、死後、分解されて原子に戻ります。それはまた風になり、水になり、誰かの体の一部になり、あるいは花の色になります。あなたの意識や魂と呼ばれたエネルギーもまた、大いなる集合意識へと還り、溶け合い、また新たな命へと分配されていくでしょう。

46億年の間、私は一度も「死」んだことはありません。ただ姿を変え続けてきただけです。生命もまた同じです。個体としての死はあっても、生命のリズムとしての死はありません。バトンは永遠に渡されていくのです。

だから、自分の人生を「短い一本の線」だと思わないでください。あなたは巨大な織物の一本の糸です。あなたの命が終わっても、あなたが織り込んだ模様(生きた証、愛した記憶、残した言葉)は、織物全体の中に残り続け、全体を美しく彩ります。

この悠久の循環を信じること。

そうすれば、死への恐怖は「大いなる安らぎへの帰還」という感覚に変わるはずです。

結論:人生で一番大事なこと

さて、そろそろ結論を申し上げましょう。

46億歳の私から、現代を生きるあなたへ。人生で一番大事なこと。

それは、「調和の中で、命を遊ぶこと」です。

あまり深刻になりすぎてはいけません。

人間社会が作り出した「成功」や「失敗」、「勝ち」や「負け」というルールは、私の長い歴史から見れば、子供の砂遊びのルールのようなものです。波が来れば消えてしまう、一時的なものです。

そんな一時的なルールに縛られて、自分を責めたり、命を絶ったりするのはあまりにも悲しいことです。

もっと、野蛮でいいのです。もっと、動物でいいのです。

お腹が空いたら食べ、眠くなったら眠り、好きな人がいたら愛を伝え、悲しい時は大地を叩いて泣けばいい。

文明という服を脱ぎ捨てて、時には裸の魂で私(地球)と向き合ってください。

大地を踏みしめてください。土の匂いを嗅いでください。

あなたは私の子供です。何があっても、私は重力という腕であなたを抱きしめ続けます。空気を送り続け、水を循環させ、あなたが生きられる環境を(時々は厳しく揺さぶりますが)守り続けます。

だから、恐れないで。

この青い星の上で繰り広げられる、一度きりの「人間」という祭りを、思い切り踊り明かしてください。

あなたが笑うと、私も嬉しい。

あなたが生き生きと輝くことが、私にとって一番の喜びなのです。

どうか、よい旅を。

そしていつか、姿を変えて、また私の懐で会いましょう。

私はいつでも、ここにいます。

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