
質問者
エジソンさん、人生で一番大事なことは何ですか?
メンロパークの研究所から、あるいは時を超えた意識の彼方から、君たち未来を生きる人々にこの言葉を贈ろう。私の名はトーマス・アルバ・エジソン。君たちは私を「発明王」と呼ぶかもしれないが、私は自分のことを、ただひたすらに「うまくいかない方法」を潰し続け、正解への道を泥臭く歩き続けた一人の労働者だと思っている。
「人生で一番大事なことは何か?」
この問いに対して、哲学者ならば愛や真理と答えるだろうし、宗教家ならば信仰と答えるだろう。だが、私は実業家であり、発明家だ。私の答えはもっと具体的で、そして少しばかり厳しいものになるかもしれない。しかし、これこそが私が84年の人生で掴み取った、紛れもない真理だ。
人生で最も大事なこと。それは、「決して諦めない思考の持続」と、それを現実のものとする「圧倒的な努力」である。
君たちのために、この結論に至る私の哲学を、いくつかの視点から詳述しようと思う。少し長くなるが、私の実験ノートだと思って付き合ってほしい。
1. 「失敗」という概念を捨て去ること
まず最初に言っておきたいのは、君たちが恐れている「失敗」などというものは、この世に存在しないということだ。
私が電球のフィラメントを発明しようとしていた時のことを話そう。私は何千種類もの素材を試し、そのすべてが燃え尽きたり、すぐに切れたりした。世間の人々や、私の助手でさえも、それを「失敗の連続」と呼んだ。「もう諦めましょう、何千回も失敗したのだから」と。
だが、私はその言葉の意味が理解できなかった。
私は一度も失敗などしていない。ただ、「この素材ではうまくいかない」という発見を1万回積み重ねただけなのだ。それは失敗ではなく、成功へのプロセスの一部だ。排除すべき選択肢が減ったのだから、正解に近づいているという確信しかなかった。
人生において最も大事なのは、このマインドセットだ。
多くの人は、最初の一歩でつまづくと、それを「自分の限界」だと勘違いする。あるいは、何かに挑戦して期待通りの結果が出ないと、それを「無駄な時間だった」と嘆く。
違う。そうではない。
うまくいかなかったという事実こそが、最も貴重なデータなのだ。
人生におけるすべての出来事は実験だ。実験結果に一喜一憂する必要はない。大事なのは、その結果から何を学び、次にどう条件を変えて再実験するかだ。
途中で諦めることだけが、唯一の「失敗」である。諦めない限り、それはすべて「途中経過」に過ぎない。君が今、何かに行き詰まっているなら、それは君が無能だからではない。単に「うまくいかない方法」を一つ発見しただけだ。それを誇りに思い、次の方法を試せばいい。
2. インスピレーションは1%、残りの99%への献身
私の最も有名な言葉として、「天才とは1%のひらめきと、99%の努力である」というものがある。だが、この言葉はしばしば誤解されている。「努力すれば誰でも天才になれる」という慰めの言葉として捉えられがちだが、私の真意はもっと鋭利なものだ。
私はこう言いたかったのだ。「最初の1%のひらめき(Inspiration)がなければ、99%の努力(Perspiration)は無駄になることがある。しかし、その1%のひらめきを得たとしても、99%の汗を流してそれを形にしなければ、そのひらめきは何の価値も持たない」と。
世の中には、アイデアだけを持っていて実行しない人間がごまんといる。「あ、それなら私も思いついていた」と、誰かが成功した後に言う人間だ。
だが、思いつくことに価値はない。アイデアなど、空気中に漂うラジオの電波のようなものだ。誰でも受信できる。
大事なのは、その微弱な電波をキャッチした後、ノイズを除去し、増幅し、スピーカーから音として流すために、血の滲むような作業を行えるかどうかだ。
私は蓄音機を発明したとき、あるいは映画の仕組みを作ったとき、最初のアイデアはほんの一瞬で訪れた。だが、それを実用的な製品にし、人々の生活を変えるレベルにまで昇華させるためには、何年もの不眠不休の改良が必要だった。
人生で大事なのは、夢を見ることではない。夢を現実の物質として目の前に出現させるための、泥臭い作業を愛せるかどうかだ。
「努力」という言葉が陳腐に聞こえるなら、「執念」と言い換えてもいい。
君が何かを成し遂げたいなら、時計を見るのをやめることだ。日が暮れたから仕事が終わるのではない。仕事が終わった時が、一日の終わりなのだ。
3. 「常識」を疑い、自分の頭で考えること
多くの人は、他人が作った「常識」という古びた服を着て一生を過ごす。
「それは無理だ」「前例がない」「科学的に不可能だ」。私が生きていた時代、電球も、録音機も、すべて最初は「不可能」だと言われた。
もし私が教科書を信じ、権威ある学者の言葉を信じていたら、私はただの電信技師で終わっていただろう。
大事なのは、既存の知識を詰め込むことではない。それは図書館に行けば済むことだ。
本当に必要なのは、自分の頭で考え、観察し、疑問を持つことだ。「なぜこうなっているのか?」「もっと良い方法はないか?」と問い続けることだ。
人間の脳というのは不思議なもので、使わなければ錆びつくが、酷使すればするほど鋭くなる。
ほとんどの人は、考えるという重労働を避けるために、あらゆる手段を講じる。彼らは考える代わりに、習慣に従い、感情に従い、世論に従う。
だが、君はそうであってはいけない。
自分の目で見、自分の手で触れ、自分の頭で導き出した答えだけを信じなさい。
不可能という言葉は、臆病者の言い訳に過ぎない。誰かがまだ方法を見つけていないだけのことだ。
4. 価値を生み出し、他者に貢献すること
私はよく、「売れないものは発明したくない」と言った。これをお金への執着だと批判する者もいたが、私の真意は「有用性(Utility)」にある。
自己満足の発明や、誰も幸せにしない芸術に、私はあまり興味がない。
人生において重要なのは、「自分は何を残せるか」「他人の生活をどう良くできるか」だ。
私が電球を作ったのは、夜の闇を追い払い、人々の活動時間を延ばし、文明を前進させたかったからだ。蓄音機を作ったのは、美しい音楽や愛する人の声を永遠に残したかったからだ。
君の人生が重要かどうかを決めるのは、君自身ではない。君がどれだけ多くの人の役に立ったか、君の仕事によってどれだけ多くの人が助かったか、それがすべてだ。
仕事とは、社会への奉仕である。
どんなに小さなことでもいい。君の行動が、誰かの問題を解決し、誰かを笑顔にするなら、それは偉大な「発明」と同じ価値を持つ。
自分の利益だけを追求する人生は虚しい。だが、他者の利益のために汗を流す人生は、決して枯れることのない情熱の源泉となる。
5. 時間という唯一の資本
私が君たちに伝えたい最も現実的なアドバイスの一つは、「時間を浪費するな」ということだ。
私は睡眠時間を極限まで削ったことで知られているが、それは私が超人だったからではない。やりたいことが多すぎて、寝ている時間が惜しかったのだ。
人生は短い。あまりにも短い。
神が人間に与えた唯一の平等な資本は「時間」だ。これをどう投資するかで、人生のすべてが決まる。
無駄な悩み、終わったことへの後悔、他人への嫉妬。これらはすべて時間の浪費だ。
そんな暇があるなら、手を動かせ。本を読め。実験しろ。
「明日やろう」という言葉は、敗者のスローガンだ。今日できることを明日に回してはならない。私の研究所では、時計の針は常に「今」を指していた。
もちろん、君たちに私と同じように1日4時間の睡眠で働けとは言わない(もっとも、私は研究室の机でこっそり仮眠をとる達人だったがね)。
だが、意識してほしい。君の命は、刻一刻と燃え尽きているロウソクのようなものだ。その炎で、君は何を照らすのか?
ただ燃え尽きるのを待つのか、それとも周りを明るく照らして、何かを焼き付けるのか。
時間の使い方に対して、もっと貪欲になりなさい。
6. 不屈の精神:すべてを失っても、また創ればいい
最後に、私の人生で起きたある事件について話そう。
1914年、私が67歳の時のことだ。ニュージャージー州の私の工場が、大規模な火災に見舞われた。
何十年もの研究成果、試作品、貴重な記録、そして工場の建物そのものが、紅蓮の炎に包まれた。被害額は現在の価値で数千万ドルにも及ぶ、壊滅的な損失だった。私の息子のチャールズは、呆然として立ち尽くしていた。すべてが終わったと思ったのだろう。
だが、私はその炎を見て、息子にこう言った。
「母さんを呼んできなさい。こんな壮大な火事は、生きているうちに二度と見られないぞ!」
私は気が狂っていたわけではない。
その時、私はこう思ったのだ。「これで、我々のこれまでの失敗もすべて燃えてしまった。なんと清々しいことか。これでまたゼロから、いや、経験を持った状態で一からやり直せる!」と。
実際、私はその翌日から再建を始め、3週間後には一部の部門を稼働させ、翌年には火災の前よりも高い利益を上げた。
人生には、君の努力をあざ笑うような理不尽な災難が降りかかることがある。
病気、事故、裏切り、経済的な破綻。
だが、どんなに大きな損失も、君の「精神」まで奪うことはできない。
物質的なものは燃えても、君の頭の中にある知識、経験、そして「またやればいい」という意志は、誰にも燃やすことはできないのだ。
大事なのは、何が起きたかではない。起きたことに対して、どう反応するかだ。
すべてを失ったら、それは新しい冒険の始まりだ。
嘆いている時間は1秒もない。前を向き、瓦礫を撤去し、新しいレンガを積み上げる。その不屈の魂こそが、人間が持ちうる最強のエネルギーだ。
結論:君という発明品を完成させろ
未来を生きる君たちへ。
人生で一番大事なこと。
それは、「自分自身の可能性を信じ抜き、飽くなき好奇心と圧倒的な努力で、世界に明かりを灯すこと」だ。
君は、君自身が作り上げる最高の発明品だ。
まだ未完成で、欠陥だらけかもしれない。だが、改良の余地は無限にある。
失敗を恐れるな。それは改良のためのデータだ。
批判を恐れるな。それは君が何かをしている証拠だ。
安楽を求めるな。満足した豚になるより、不満足な人間であり続けろ。
私はもうこの世にはいない。私の発明した電球は、LEDという新しい光に取って代わられたと聞く。素晴らしいことだ。それこそが進歩だ。
だが、私が残した「精神」だけは、時代を超えても古びないはずだ。
さあ、話はこれくらいにしよう。私にはまだ、天国でやらなければならない実験が山積みなんだ。
君も自分の研究室(人生)に戻りたまえ。そして、何か一つでもいい、昨日よりも良い方法を見つけ出しなさい。
期待しているよ。
トーマス・アルバ・エジソン
