やあ、よく来たな。まずはそこに座れ。酒は何がいい?……ああ、ここでは出せないんだったか。それなら、心のなかで一番強いやつを注いでおいてくれ。
「人生で一番大事なことは何か」だって?
おかしなことを聞くもんだ。俺はただの役者だ。それも、長いこと悪党やゴロツキを演じて、ようやく40を過ぎてから、トレンチコートを着て雨の中に立たせてもらえるようになった、ただのしがない男さ。哲学者でもなければ、説教臭い教育者でもない。
だが、もし君がどうしても、このボギーの口から「答え」を聞きたいというのなら、煙草の煙と一緒に、俺の考えてきたことを吐き出してみよう。3500字も語るとなると、少々長い夜になりそうだが……付き合ってもらえるか。
1. 「本物」であること、そして「自分」を裏切らないこと
俺が人生で最も忌み嫌ってきたものがある。それは「まやかし(フォニー)」だ。
ハリウッドという街は、まやかしの塊だ。偽の笑顔、偽の名前、偽のロマンス、そして偽の道徳。誰もが他人からどう見られるかを気にし、スタジオの幹部や世間の顔色をうかがって、自分じゃない誰かを演じている。
だがな、人生という舞台において、一番大事なのは「自分自身に対して誠実であること」だ。
俺はかつて、スタジオの偉い連中と何度も衝突した。彼らは俺に、もっと愛想よくしろ、もっとスターらしく振る舞えと命じたが、俺は断った。なぜなら、俺は俺だからだ。自分が信じないセリフを吐き、自分が認めない価値観に頭を下げるくらいなら、役者を辞めたほうがマシだと思っていた。
君に言いたい。世間が何を言おうと、君が正しいと信じる道を行け。自分の良心を売り飛ばして得た成功なんて、安物のジンと同じで、後味が悪いだけだ。鏡を見た時に、そこに映っている男が「まともな人間」だと思えるか。それがすべてだ。
2. 仕事へのプライド(プロフェッショナリズム)
次に大事なのは、「自分の仕事を、正しくこなすこと」だ。
俺はよく、共演者やスタッフに厳しく当たることがあった。それは俺が気難しいからじゃない(まあ、否定はしないが)。仕事に対して不誠実な奴が許せなかったんだ。
セリフを覚えてこない、時間に遅れる、最高の演技をしようとしない……そんな奴らは、その仕事に敬意を払っていない。プロというのは、どんなに体調が悪かろうが、私生活で悲しいことがあろうが、カメラが回れば「完璧」を提示しなければならないんだ。
人生というのは、日々の小さな仕事の積み重ねだ。どんなに些細な役割であっても、それを一生懸命、完璧にこなすこと。そこにしか、人間の尊厳は宿らない。『マルタの鷹』や『カサブランカ』を撮っているとき、俺が考えていたのは「偉大なスターになろう」なんてことじゃない。「このシーンを、このサム・スペードという男を、いかにリアルに、いかに誠実に演じきるか」それだけだった。
成功なんてものは、後からついてくる影のようなものだ。大事なのは、その影を追いかけることじゃなく、光(仕事)に向かって正しく立つことなんだ。
3. 孤独を愛し、かつ孤独に屈しない
多くの人間は、一人になることを恐れる。だが、人生で一番大事なことを知るためには、「一人で立つ強さ」が必要だ。
俺が演じてきたリック(カサブランカ)やサム・スペードは、皆どこか孤独だった。彼らは群れない。誰かに寄りかからない。自分の足で立ち、自分の責任で決断を下す。
誰かと一緒にいなければ不安だというのなら、君はまだ自分の人生を生きていない。一人で酒を飲み、一人で海を見つめ、自分の内側にある声に耳を傾ける時間を持ちなさい。自分という人間を完全に理解し、その孤独を受け入れたとき、初めて他者と本当の意味で繋がることができる。
群衆の中に紛れ込んで安心している人間は、いざという時に何も守れない。自分一人で嵐の中に立っていられる覚悟があってこそ、大切な誰かを守るための傘になれるんだ。
4. 愛――「ベイビー」が教えてくれたこと
ああ、これを語らずにはいられないな。俺の人生を変えた、ベイビー(ローレン・バコール)のことだ。
俺は彼女に出会うまで、愛なんてものは映画の中だけのファンタジーだと思っていた。3回も結婚に失敗し、心はすっかり荒み、女なんてものは信じられない……そう思って、酒とヨットに逃げ込んでいた時期もあった。
だが、彼女が現れた。自分よりも25歳も若く、それでいて誰よりも誇り高く、意志の強い女性だ。彼女との出会いは、俺に「愛することの責任と喜び」を教えてくれた。
人生で一番大事なことの一つは、「この人のためなら、自分の命もプライドも投げ出せる」という相手を見つけることだ。
男はタフでなければ生きていけないが、優しくなければ生きている資格がない。彼女と過ごした時間は、俺の人生の中で最も輝かしい瞬間だった。彼女の前では、俺は「ボギー」というスターである必要はなかった。ただの一人の男として、彼女を愛し、彼女に愛される。それだけで、俺の人生は完成していたと言ってもいい。
君も、もし幸運にもそんな相手に出会えたなら、死に物狂いでその手を離さないことだ。地位や名誉なんてものは、愛する人と過ごす一瞬の朝食の時間に比べれば、ゴミのようなものだよ。
5. 「死」を見つめる勇気
さて、少し重い話もしよう。
人生の終わりというものは、突然やってくる。俺も今、こうして君に語りかけながら、かつて自分を蝕んだ病や、去っていった友人たちのことを思い出している。
人生で大事なのは、「いつ終わっても後悔しないように、今を生きること」だなんて、よくある格言を言うつもりはない。そんなことは、誰だって知っている。
だが、本当に「死」を意識して生きている奴がどれだけいるだろうか?
俺は、死を恐れなかったわけじゃない。だが、死に際して「もっといい格好をしておけばよかった」とか「もっと稼いでおけばよかった」なんて後悔することだけはしたくなかった。
人生の幕が下りるとき、観客席にいる自分自身に対して、「まあ、悪くない芝居だったな」と言えるかどうか。不器用で、傷だらけで、間違いだらけの人生だったとしても、少なくとも自分に嘘はつかなかった。誰かを本気で愛した。自分の仕事に誇りを持った。そう言えるなら、死なんてものは、ただの「長い眠り」に過ぎない。
俺は最後にこう言ったんだ。「スコッチをジンに変えるんじゃなかった」とな。……これは冗談だが、それくらいの軽口を叩いて去っていけるのが、一番の理想さ。
6. 君へのアドバイス
ここまで長々と話してきたが、そろそろ煙草も短くなってきた。
最後に、俺から君へ、いくつか具体的な「心得」を伝えておこう。これが「一番大事なこと」を支える柱になるはずだ。
- 「安い酒と安い女に溺れるな」自分を安売りするな。自分の価値を決めるのは他人じゃない、自分自身だ。一流の人間になりたければ、一流の心を持ちなさい。
- 「口を閉じて、耳を開け」饒舌な男に、本物はいない。自分のことを語りすぎるな。沈黙の中にこそ、真実がある。
- 「礼儀を忘れるな」俺はよく無頼漢を演じたが、実生活では礼儀を重んじた。本当の強さとは、相手を敬う余裕があるということだ。
- 「自分の弱さを知れ」強がっているだけの男は、ただの臆病者だ。自分の弱さを認め、それを抱えたまま立ち上がる男こそが、真に勇敢なんだ。
人生というのは、一編のモノクロ映画のようなものだ。色彩はないかもしれない。華やかさには欠けるかもしれない。だが、光と影のコントラストがはっきりしていれば、それは美しく、力強い映像になる。
君の人生の監督は、君自身だ。
どんなにひどい脚本を渡されても、その中でどう演じるかは君が決めることができる。
スタジオの幹部(世間)に媚びるな。
自分の信じるセリフを吐け。
そして、愛する人を強く抱きしめろ。
……さて、もう夜も更けた。俺はそろそろ行かなくちゃならない。霧が出てきたようだ。
君の旅が、良いものでありますように。
「君の瞳に乾杯」……なんてな。そんなキザなセリフは、映画の中だけで十分だ。
じゃあな。元気で。
いかがでしょうか。ハンフリー・ボガートという男の「ハードボイルドな美学」と「内面にある誠実さ」を詰め込んでみました。
ボガートは、その人生を通じて「本物であること(Authenticity)」を追求し続けた人です。もし彼が現代にいたとしても、きっとSNSのフォロワー数や他人の評価に振り回されることなく、自分の信じる道を、静かに、そして力強く歩んでいることでしょう。
この回答が、あなたの「人生で一番大事なこと」を探すヒントになれば幸いです。