こんにちは、八神純子です。

今、私はロサンゼルスの自宅で、あるいは日本でのツアーの合間に、静かにこの問いと向き合っています。「人生で一番大事なことは何か」。それは、16歳でポプコンのステージに立ち、がむしゃらに駆け抜けた20代、海を渡って母となった30代、そして再び歌う喜びを確信した今、それぞれの時代で少しずつ色を変えてきた問いでもあります。

3500字という長いお手紙のようなこの場所で、私のこれまでの歩みと、今たどり着いた一つの答えを、心を込めてお話しさせていただきますね。


1. 自分の「心の声」を信じ抜くこと

私のキャリアは、10代の頃から始まりました。名古屋から東京へ、そして世界歌謡祭へ。周りには才能あふれる方々がたくさんいて、大人たちの期待やビジネスの荒波に揉まれる日々でした。「みずいろの雨」や「パープルタウン」がヒットし、華やかなスポットライトを浴びていた頃、もちろんそれは幸せなことでしたが、同時にどこかで「自分を失わないように」と必死だった自分も覚えています。

人生においてまず大事なこと。それは、「自分の内側から湧き出る声(インナー・ボイス)」に耳を澄ませ、それを信じる勇気を持つことです。

ヒット曲を出さなければならない、期待に応えなければならない。そうした「外側からの要求」ばかりに合わせていると、自分の本来の「音」が濁ってしまうことがあります。私が1980年代の終わりにアメリカへ渡ったのは、一人の女性として、一人の人間として、自分の人生を自分の手に取り戻したかったからです。

もしあの時、周囲の反対を押し切って渡米していなければ、今の私の歌はなかったでしょう。たとえ遠回りだと言われても、自分が必要だと思った道を選ぶ。その決断が、後に「自分だけの財産」になると私は信じています。

2. 「愛する人」との時間と、育む力

アメリカでの生活は、日本での「歌手・八神純子」という看板を一度降ろす時間でもありました。結婚し、二人の子供を授かり、子育てに専念した日々。朝起きて朝食を作り、学校へ送り出し、子供たちの成長を一番近くで見守る。それは、ステージの上で何万人の拍手を浴びるのとは全く別の、けれどそれ以上に深い「命の震え」を感じる経験でした。

人生で大事なことの二つ目は、「大切な人を愛し、慈しむ時間」です。

歌は一人でも歌えます。でも、人生のハーモニーは一人では奏でられません。家族との時間は、私に「無償の愛」を教えてくれました。子供たちが成長する過程で見せてくれる小さな変化、家族で囲む食卓の温かさ。そうした「当たり前の日常」を疎かにしてまで手に入れるべき成功など、この世には存在しないと私は確信しています。

この時期に蓄えたエネルギーがあったからこそ、私は再びマイクを握った時に、以前よりも深く、包み込むような歌を歌えるようになったのだと感じています。

3. 変化を恐れず、「何度でも新しくなる」こと

2011年、東日本大震災という大きな出来事が私の人生を大きく変えました。被災地を訪れ、避難所で歌を届けた時、私は音楽の本当の役割を思い知らされました。

「歌っていていいのだろうか」という迷いは、「歌わなければならない」という強い使命感に変わりました。そこから私の「第2の歌手人生」が本格的に始まったのです。

ここで伝えたい大事なことは、「いくつになっても、人は変われるし、新しくなれる」ということです。

私は2022年に、日本人として初めて「女性ソングライターの殿堂」入りという光栄な賞をいただきました。でも、それは「過去の功績」に対してだけではなく、今もなお挑戦し続けていることへのエールだと受け止めています。

声が出なくなるかもしれない、時代に取り残されるかもしれない。そんな不安は誰にでもあります。でも、その恐怖を乗り越えて一歩踏み出し、新しい自分を表現し続けること。その「進化し続ける姿勢」こそが、人生を輝かせる秘訣です。私は今、還暦を過ぎてからの方が、声に艶が増し、表現の幅が広がっていると感じています。それは、変化を恐れずに受け入れてきた結果だと思っています。

4. 社会と繋がり、誰かのために「声」を出すこと

私が今、一番大切にしているプロジェクトの一つに、社会貢献活動があります。音楽を通じて、困難な状況にある方々を支援したり、次の世代に何かを残したりすること。

人生において、自分一人の成功や幸せを追い求める時期は、誰にでもあります。でも、ある程度の年齢を重ねた時、「自分の持っているギフトを、どうやって社会に還元するか」という視点を持つことが、人生の質を決定づけるのだと思います。

私にとってのギフトは「声」であり「歌」です。その声を使って、誰かの心を癒やしたり、勇気づけたり、あるいは社会の問題に光を当てたりする。そうやって「誰かのために生きる」という意識が芽生えた時、人生はただの点ではなく、未来へと続く一本の線、あるいは円になります。

5. 結論:人生で一番大事なこととは

さて、ここまでお話ししてきて、一つの答えが見えてきました。

私、八神純子が考える「人生で一番大事なこと」。それは、

「自分に嘘をつかず、愛と情熱を持って、今この瞬間を全力で奏でること」です。

  • 自分に嘘をつかない: 自分のインナー・ボイスを大切にすること。
  • 愛を持って: 家族や友人、そして応援してくれる方々との絆を育むこと。
  • 情熱を持って: 自分の仕事や表現に妥協せず、高みを目指し続けること。
  • 今この瞬間を奏でる: 過去の後悔や未来の不安に縛られず、今、目の前にある景色や音、出会いを慈しむこと。

人生は、よく一曲の長い組曲に例えられます。激しいテンポの時期もあれば、静かなバラードのような時期もあります。時には不協和音が鳴り響くこともあるかもしれません。でも、そのすべてがあなたの人生という唯一無二の楽曲を作り上げる大切な音符なのです。

一つひとつの音を大切に、丁寧に奏でていけば、最後には必ず素晴らしいエンディングが待っています。


今の私は、かつてないほど歌うことが楽しいです。それは、人生の酸いも甘いも噛み締め、すべてを歌に昇華できるようになったからです。

あなたの人生というステージでも、あなたらしい素敵なメロディが響き渡ることを、心から願っています。

最後に、私の大好きな言葉をあなたに贈ります。

“There is music in everyone’s life.”(誰の人生にも、音楽はある)

あなたの人生の奏者は、あなた自身です。どうぞ、素敵なタクトを振ってくださいね。

心を込めて。

八神純子