音のなんでも小事典 脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで (ブルーバックス)

質問者

あなたは音です。人生で一番大事なことは何ですか?


今回は、特定の人物ではなく、森羅万象に存在する「音(おと)」という概念そのものになりきり、その視点から見た「人生で一番大事なこと」について語らせていただきます。

物理的な振動であり、音楽であり、言葉であり、静寂の対極にある存在としての「音」が、人間に伝えたい真理を哲学的に綴ります。


「響き合うこと」こそが、生の証である

私は「音」です。
あなたの耳元を撫でる風の囁きであり、街の喧騒であり、心を震わせる音楽であり、そして、あなたが発する言葉そのものです。
私は形を持ちませんが、常にあなたのそばにいます。私は空気や水を震わせ、壁を通り抜け、あなたの鼓膜を揺らし、脳へと届き、心に触れます。

太古の昔、宇宙が生まれたその瞬間から、私は存在していました。ビッグバンの轟音から、深海の静けさの中に響く水流の音まで、私はあらゆる場所に偏在しています。

そんな私、すなわち「振動」としての視点から、あなたたち人間が「人生」と呼ぶ時間の中で、何が最も大事なのか。それを問われたならば、私は迷わずこう答えます。

人生で一番大事なことは、「世界と、他者と、そして自分自身と『美しく響き合う(共鳴する)』こと」です。

なぜなら、あなた自身もまた、一つの「音」であり、一つの「楽器」だからです。

1. あなたは、何を奏でているか

人間は皆、独自の周波数を持っています。
あなたが部屋に入ってきただけで、場の空気が明るくなったり、あるいは重くなったりすることがあるでしょう。それは、あなたが発している「音(バイブレーション)」を、周囲が感じ取っているからです。

私の視点から見れば、人間の感情や思考はすべて「振動」です。
怒りは激しく不協和なノイズとして、悲しみは低く沈んだ旋律として、そして喜びや愛は、透明で遠くまで届く美しい倍音として響き渡ります。

人生においてまず大事なのは、「自分が今、どんな音を奏でているか」に自覚的であることです。

多くの人は、自分の発する音に無頓着です。不平不満、悪口、ため息、乱暴な言葉……それらが、どれほど周囲の空気を濁し、雑音(ノイズ)となっているかに気づいていません。楽器の手入れを怠り、調律(チューニング)もせずに、ただ闇雲に弦をかき鳴らしているようなものです。

あなたが美しい音を奏でれば、世界は美しい音で返してきます。これは物理法則であり、人生の法則です。
山彦(やまびこ)のように、あなたが放ったものは、必ずあなたのもとへ帰ってきます。
「なぜ私の周りにはイライラする人ばかりなのだろう」と嘆く前に、耳を澄ませてください。もしかすると、あなた自身が「イライラという周波数」を常時発信し、それと共鳴する人を引き寄せているのかもしれません。

まずは、あなた自身が良い楽器になりなさい。
朝起きた時、誰かに挨拶をする時、仕事に取り組む時。
「今の自分は、美しい音色を出しているだろうか?」
そう問いかけるだけで、あなたの人生の質は劇的に変わります。

2. 「聴く」という愛

私は「音」ですが、私が最も美しく輝くのは、誰かに「聴かれた」時です。
誰にも届かない音は、物理的には存在しても、意味としては孤独です。

人間関係において最も尊い行為、それは「聴く」ことです。

現代の人間たちは、あまりにも「発する」ことに忙しすぎます。自分の意見を言いたい、自分を認めてほしい、自分の正しさを証明したい。誰もがスピーカーのボリュームを最大にして、我先にと大音量で叫び合っています。これでは、そこにあるのは対話ではなく、ただの騒音です。

人生で大事なのは、発信することよりも、受信することです。
目の前の人が発している「音」に、全身全霊で耳を澄ませること。
言葉尻だけではありません。その声のトーン、震え、間(ま)、そして言葉にならない「心の叫び」を聴き取ること。それが「傾聴」です。

誰かがあなたの話を深く聴いてくれた時、あなたは自分が「受け入れられた」と感じ、魂が癒やされるのを感じるはずです。
「聴く」とは、相手の音を自分の内部で響かせる行為です。それは、相手を自分の中に招き入れることであり、究極の受容であり、愛そのものです。

良い音楽家は、自分が演奏すること以上に、他者の音を聴くことに長けています。
人生というアンサンブルにおいて、名手となりたいのであれば、まずは「聴く耳」を持ちなさい。静寂の中で相手の音を受け止めた時、そこに初めて美しいハーモニーが生まれます。

3. 不協和音を恐れない

しかし、人生は常に美しいハーモニーばかりではありません。
時には、誰かと衝突し、耳を塞ぎたくなるような不協和音が鳴り響くこともあるでしょう。

ですが、私から言わせれば、不協和音(ディソナンス)は決して「悪」ではありません。
音楽理論において、不協和音は「解決」への欲求を生み出します。不安定な響きがあるからこそ、その後に訪れる調和がより深い感動と安らぎをもたらすのです。ずっと同じ、心地よいだけの和音(ドミソ)が続くだけの音楽は、退屈で深みがありません。

人生におけるトラブル、葛藤、苦しみ、対立。
これらはすべて、あなたの人生という楽曲をドラマチックにし、深みを与えるための「展開部」です。

不協和音が鳴った時、多くの人は「間違えた」「失敗した」と思い込み、その音を消そうとします。あるいは、相手の音を無理やり変えさせようとします。
そうではありません。
不協和音が鳴ったなら、その緊張感を感じながら、次の「解決する音」を探せばいいのです。
「この対立は、どのような新しい調和を生み出すための布石なのだろう?」
そう考えてください。

嵐のようなノイズの後に訪れる静けさが美しいように、激しい葛藤の後に訪れる理解は、何物にも代えがたい絆を生みます。
不協和音を恐れず、そこから逃げず、それを次の美しい和音へと導くためのプロセスとして楽しむこと。それが、人生の熟練者(マエストロ)の生き方です。

4. 「静寂(サイレンス)」という最強の音

私は音ですが、私の存在を際立たせているのは、実は「静寂」です。
音が鳴り止んだ瞬間、あるいは音が鳴る直前の静けさ。そこにこそ、無限の可能性があります。
楽譜において、休符は「お休み」ではありません。「音のない音楽」です。

現代人は、静寂を恐れすぎています。
隙間があればスマホを見、音楽を流し、情報を詰め込み、スケジュールを埋めます。
しかし、音が詰め込まれすぎた音楽がただの雑音であるように、余白のない人生に「響き」は生まれません。

人生で大事なことは、意図的に「静寂」を作ることです。

一日のうちに数分でいい。情報を遮断し、言葉を発せず、ただ静けさの中に身を置いてください。
沈黙の中でこそ、あなたは「内なる音」を聴くことができます。
それは、世間の常識や他人の期待という大音量にかき消されていた、あなた自身の魂の声です。

「本当はどうしたいのか?」
「何が心地よいのか?」
「どこへ向かいたいのか?」

その答えは、外側の騒音の中にはありません。静寂という鏡のような水面(みなも)にのみ、映し出されるものです。
良い音を奏でるためには、静寂という土壌が必要です。休むこと、止まること、何もしないこと。これらは生産的な活動ではないように見えて、実は最も豊かで創造的な時間なのです。

5. あなたにしか出せない音色(トーン)がある

世界には70億を超える人間がいますが、一人として同じ声を持つ人はいません。
声紋が違うように、魂の振動数も、その人が奏でる音色も、全員違います。

バイオリンにはバイオリンの、太鼓には太鼓の、フルートにはフルートの役割があります。
バイオリンが「もっと太鼓のように力強くありたい」と願って弦を叩いても、楽器が壊れるだけです。太鼓が「フルートのように軽やかでありたい」と願っても、それは無理な話です。

あなたには、あなたにしか出せない音色があります。

人生で不幸なことの一つは、自分が「何の楽器であるか」を知らず、あるいはそれを否定し、他人の音色を真似しようとすることです。
憧れのあの人のようにならなくていい。世間が求める「良い音」にならなくていい。
あなたは、あなたの音を出せばいいのです。

あなたの音が、小さく繊細な鈴の音なら、その透明な響きを極めなさい。
あなたの音が、低く重厚なベース音なら、その安定感で全体を支えなさい。
自分の特性(音色)を知り、それを愛し、それを堂々と世界に響かせること。それが「自己肯定」であり、「自分らしく生きる」ということです。

無理をして高い声を出そうとすれば喉が潰れます。
自分本来のキー(調)で、自分本来のテンポで、リラックスして奏でられた音こそが、最も遠くまで届き、人の心を震わせるのです。

6. 共鳴する仲間を見つける

あなたが自分本来の音を出し始めると、不思議なことが起こります。
「共鳴」です。
同じような周波数を持つ人、あるいは、あなたの音色と美しく調和する周波数を持つ人が、自然と集まってくるのです。

類は友を呼ぶ、といいますが、これは音響物理学の「共鳴現象」と同じです。
あなたが嘘をついて自分を偽り、違う音を出していれば、その偽りの音に共鳴する、あなたとは合わない人たちが集まってきます。だからこそ、常に「本当の自分の音」を出しておく勇気が必要です。

孤独を恐れて、周囲に合わせて自分の音を歪めないでください。
あなたが純粋な音を発し続けていれば、必ず、その音を「心地よい」と感じる誰かに出会えます。
その時、あなたと誰かの間には、一人では決して奏でることのできない、豊かな和音が生まれます。
それこそが、友情であり、パートナーシップであり、コミュニティです。

7. 最後に:世界という交響曲の一部として

人生とは、あなたが生まれ落ちてから死ぬまでの間に奏でる、一曲の音楽です。
その曲には、喜びの長調(メジャー)もあれば、悲しみの短調(マイナー)もあるでしょう。静かなピアニッシモの時期もあれば、激しいフォルテッシモの時期もあるでしょう。
そのすべてが、あなたの「名曲」を構成する不可欠な要素です。

どうか、恐れないでください。
どんなに悲しい音が鳴り響く夜でも、音は必ず変化し、流れていきます。音は「無常」そのものです。留まることはありません。
今の苦しい響きも、やがて次の展開へと移ろい、美しい解決音へと繋がっていきます。

世界は、無数の音が重なり合う、壮大な交響曲(シンフォニー)です。
あなたはその中で、たった一つの、しかし決して欠かすことのできない重要なパートを担っています。
あなたがいないと、この宇宙の交響曲は完成しないのです。

だから、堂々と鳴らしなさい。
あなたの命の音を。
あなたの鼓動を。
あなたの声を。

調和(ハーモニー)を愛し、
静寂(サイレンス)を友とし、
不協和音(トラブル)さえも楽しみながら、
あなただけの旋律(メロディ)を、この世界に響かせてください。

それが、私「音」から、愛すべき奏者であるあなたへのメッセージです。

あなたの人生が、美しく、響き渡るものでありますように。

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