💡 人生で一番大事なこと:「心を高めること」、すなわち 「人間として正しい生き方を貫くこと」

もし、この複雑な宇宙の中で、私がただ一つ、あなたにお伝えできる「人生の核心」があるとするならば、それは 「心を高めること」、換言すれば 「人間として正しい生き方を、地道に、しかし徹底して貫くこと」 に尽きます。

多くの人は、成功、富、名誉、地位といった目に見えるものを追い求めます。もちろん、これらも社会を生きる上で必要な要素でしょう。しかし、私が京セラやKDDIを創業し、日本航空(JAL)を再生させるという、幾多の荒波を乗り越える中で悟ったのは、それらはすべて 結果 であり、人生の 目的 ではない、ということです。

人生の目的とは、生まれたときよりも、わずかでも 立派な魂、美しい心 を磨き上げ、死を迎える瞬間に、それを携えて旅立つこと。つまり、この世における 「心の修行」 こそが、私たちの人生の真の目的なのです。

この「心を高める」という教えは、私が人生をかけて築き上げた哲学、すなわち 「京セラフィロソフィ」「盛和塾」 の根幹をなすものであり、すべての判断基準であり続けてきました。

1. 人生・仕事の結果=考え方 × 熱意 × 能力

私の人生哲学を象徴する、最も有名な方程式から話を始めましょう。

$$\text{人生・仕事の結果} = \text{考え方} \times \text{熱意} \times \text{能力}$$

この方程式において、「能力」や「熱意」は、それぞれ 0点から100点 までの範囲をとります。しかし、最も重要なのは 「考え方」 です。これは マイナス100点からプラス100点 までの範囲をとります。

  • 能力(Skill): 生まれ持った才能、知性、学歴など。
  • 熱意(Effort): 努力する心、情熱、継続力など。
  • 考え方(Attitude/Philosophy): 人生に対する姿勢、哲学、心のあり方。

もし、いくら能力が高く(100点)、熱意があった(100点)としても、その 「考え方」がマイナス であれば、結果は大きなマイナスとなります。たとえば、その能力と熱意が、私腹を肥やすため、あるいは他者を陥れるために使われたとしたらどうでしょう。社会にとっても、本人にとっても、その結果は破壊的なものとなります。

逆に、能力は平凡であっても、「人間として正しい考え方」(プラス100点)を持ち、誰にも負けない努力と情熱(熱意100点)を注げば、その人生・仕事の結果は限りなく大きなプラス($100 \times 100 \times 100 = 1,000,000$)になります。

この「考え方」こそが、「心を高めること」であり、「人間として正しい生き方を貫くこと」にほかなりません。

2. 人間として正しい「原理原則」を判断基準にする

では、「人間として正しい考え方」とは具体的に何を指すのでしょうか。それは、子供の頃に親や先生から教わった、ごく当たり前の 「原理原則」 です。

  • 正直であれ
  • 嘘をつくな
  • 人に迷惑をかけるな
  • 欲張るな
  • 奢るな
  • 誰にも負けない努力をせよ
  • 利他の心を持て

経営者はもちろん、一人の人間として、私たちは日々、無数の選択と決断を迫られます。その際、迷ったときに立ち返るべき判断基準が、この 「原理原則」 でなければなりません。

「目先の利益のために、少しくらい不正を働いてもいいのではないか?」「他人が気づかなければ、少しくらい手を抜いてもいいのではないか?」――悪魔の囁きは、常に私たちを誘惑します。しかし、ここで一瞬でも立ち止まり、「今、この判断は、人間として正しいのか?」 と自問自答し、原理原則に立ち返る勇気を持つこと。この地道な繰り返しこそが、心を高め、人生の成功へと繋がる唯一の道なのです。

私がJAL再建を引き受けた際も、「利己的な組織の論理」や「既得権益」といった迷いの霧を晴らしたのは、この 「日本経済のためにJALを再生させるのは、人間として正しいことである」 という、一点の曇りもない原理原則でした。

3. 「利他の心」で生きる

心を高める上で、最も重要な概念が 「利他の心」 です。

利他とは、「自分よりも、まず他人のことを思いやる心」 のことです。

人間は、もともと「利己の心」を持っています。これは、生命維持に必要な本能的な心です。しかし、この利己の心だけでは、争いや奪い合いが絶えず、真の幸福は訪れません。

仏教の教えにもあるように、「自らよければ、他者もよくなる」という 「自利利他」 の精神こそが、宇宙の真理です。

事業経営においても、利他の心は成功の秘訣です。京セラを創業したとき、私は常に「社員とその家族を幸せにするにはどうすればよいか」を考えました。KDDIを立ち上げたときも、「国民に安価な通信手段を提供することで、社会に貢献する」という利他を掲げました。

「自分だけが儲かればいい」という利己的な動機で始めた事業は、いずれ行き詰まります。なぜなら、顧客も、取引先も、社員も、すべての人々は、その利己的な心を見抜くからです。

「世のため、人のためになる行いをする」 という利他の心から発した行動は、必ず宇宙の応援を受け、最終的には自分自身にも、豊かな実りとして還ってきます。これが、私が体得した 「因果の理法」 です。

4. 燃えるような「情熱」と「誰にも負けない努力」

「心を高める」という精神論は、ともすれば抽象的に響くかもしれません。しかし、それを現実のものとするためには、具体的な行動が伴わなければなりません。それが 「燃えるような情熱」「誰にも負けない努力」 です。

心を高める道とは、苦労の連続です。困難に直面したとき、「もう無理だ」「自分にはできない」と諦めるのはたやすいことです。しかし、そこで「なぜできないのか?」と真摯に自問し、「できるまでやり抜く」 という執念を持つことが、心を鍛え、能力を磨き上げます。

私は、仕事に取り組む際には、そのことが頭の中で 「カラーで、ありありと見える」 ほどに、徹底的に考え抜きました。これを 「神が降りてくるまで考える」 と表現しました。それほどの情熱をもって取り組めば、必ずや道は開けます。

そして、この努力は、ただ量をこなすだけでなく、「昨日よりも今日、今日よりも明日、より良いものを創ろう」という 創意工夫 に満ちたものでなければなりません。日々の地道な努力こそが、心を清め、運命をも変える力となるのです。

5. 「感謝の心」と「謙虚さ」を忘れない

成功を収め、名声を得ると、人はとかく 傲慢 になりがちです。これが、「考え方」をマイナス に転じさせる、最も恐ろしい落とし穴です。

私たちの成功は、決して自分一人の力で成し遂げられたものではありません。天の理、宇宙の法則、そして何よりも、社員、取引先、家族、地域社会、そしてご先祖様のお陰です。

  • 感謝の心: どんな小さなことにも「ありがとう」と心から言えること。成功したときほど、周囲への感謝を忘れないこと。
  • 謙虚さ: 奢り高ぶらず、常に自分の未熟さを認め、学び続ける姿勢を持つこと。

この 「感謝と謙虚」 の二つが、せっかく高めた心を曇らせず、常に明るく、正しい状態に保つための、いわば 「心のガードレール」 となるのです。


結びに:人生は「魂を磨く道場」

長くなりましたが、私の言いたいことは突き詰めればシンプルです。

私たちの人生は、魂を磨くための 「修行の場」 であり、私たちがこの世で成すべきことは、より良き行いを積み重ね、より美しい心、立派な魂 を携えて死を迎えることです。

お金、地位、名誉、財産、これらはすべて、あの世へは持っていけません。しかし、この世で磨き上げた 「魂」 だけは、あなた自身として、永遠に残るのです。

この世の試練や苦難は、すべて私たちを磨き上げるための 砥石 です。困難に直面したときこそ、それを 「天からの試練、心を高めるチャンス」 と捉え、「人間として正しい生き方」 を貫き通すこと。

これが、稲盛和夫が人生のすべてをかけて辿り着いた、「人生で一番大事なこと」 であり、人類が共有すべき普遍の真理であると確信しております。

どうか、あなたも、この宇宙の真理を信じ、日々、心を高める努力を積み重ねていってください。そうすれば、あなたの人生は必ず、豊かで実りあるものとなるでしょう。