マーケターの森岡毅です。

「人生で一番大事なことは何か?」

この問いに対して、情緒的な答えや、耳触りの良い精神論を期待しているなら、私はあなたを失望させるかもしれません。しかし、もしあなたが「自分の人生を最大限に輝かせたい」「結果を出したい」と本気で願っているなら、私が導き出したこの答えは、あなたの強力な武器になるはずです。

私が考える、人生において最も大事なこと。

それは、「己の『特徴(属性)』を正しく知り、自分が『勝てる戦場』を選び抜くこと」です。

なぜこれが最も重要なのか。

それは、人生というものが「限られた時間」と「限られたリソース」を使って成果を出すゲームであり、この戦略を間違えると、どんなに努力しても報われないという残酷な現実があるからです。

数理マーケティングの視点から、人生の戦略について3500字程度で徹底的に言語化しましょう。


第1章:残酷な現実と「努力」の罠

まず、多くの日本人が陥っている最大の勘違いから正さなくてはなりません。それは「苦手なことを克服すれば成功できる」「努力は裏切らない」という神話です。

はっきり言います。努力は、しばしば平気で人を裏切ります。

それは「方向性を間違えた努力」をした場合です。

日本の教育システムは、すべての教科で平均点以上を取ることを良しとします。苦手な科目があれば、それを補習して平均に近づけようとする。凹んでいる部分を埋めて、まん丸な人間を作ろうとする。

しかし、社会という「資本主義の競争市場」においては、この考え方は致命的です。

社会で価値があるのは「平均的な人間」ではありません。「突出した何か(強み)」を持っている人間です。

誰にでもできることを、誰よりもうまくこなしても、それは代替可能な人材にしかなりません。しかし、あなたにしかできないこと、あなたの特徴がバシッとハマる領域で成果を出せば、あなたは唯一無二の存在になれる。

私がUSJの再建でやったことも、本質は同じです。ディズニーランドになろうとするのをやめたのです。USJが持っている「映画」「大人の興奮」「ありとあらゆるエンターテイメントをごった煮にする力」という特徴(属性)を見極め、それを最大限に活かせる文脈に変えたからこそ、V字回復ができたのです。

人間も同じです。

自分の形が「四角」なのに、必死に削って「丸」になろうとしてはいけない。四角いまま、その角(かど)が武器になる場所を探すべきなのです。

人生で最も大事なのは、自分を変えることではありません。

自分の「特徴」が「強み」に変わる文脈(環境)を見つけ出すことです。

第2章:己の「属性」を知るということ

では、どうやって自分の特徴を知ればいいのか。

ここで多くの人が間違えるのが、「何になりたいか(名詞)」で考えてしまうことです。「医者になりたい」「クリエイターになりたい」「社長になりたい」。これは間違いです。

職業名(名詞)というのは、あくまで社会的な役割のパッケージに過ぎません。大事なのは、「何をしているときに、自分の脳が最も快感を感じるか(動詞)」という「属性」の理解です。

私は人間を大きく3つの属性に分けて考えています。

  1. Tの人(Thinking): 考えることが好きな人。戦略を立てたり、分析したり、知的なパズルを解くことに快感を覚えるタイプ。
  2. Cの人(Communication): 人と繋がることが好きな人。誰かと話したり、人脈を広げたり、人を動かすことに喜びを感じるタイプ。
  3. Lの人(Leadership): 変化を起こすことが好きな人。目標を掲げて達成したり、自分で決断してリスクを取ることに燃えるタイプ。

あなたはどれですか?

これは生まれ持った脳の配線、DNAレベルでの特性に近いもので、後天的に大きく変えることは難しい「定数」だと私は考えています。

もし、本来は一人で深く思考するのが好きな「Tの人」が、営業会社に入って毎日100人に飛び込み営業をする「Cの戦場」に身を置いたらどうなるか。

どれだけ歯を食いしばって努力しても、息をするように人付き合いができる「根っからのCの人」には絶対に勝てません。成果が出ないだけでなく、精神を病んでしまうでしょう。

逆に、考えることが苦手で、とにかく身体を動かして人と会うのが好きな人が、一日中デスクで数字と向き合う研究職についたら、これも地獄です。

自分の属性に合わない場所で戦うことは、自分の人生に対する冒涜です。

自分の属性を知ることは、自分を愛することと同義です。「自分は何をしている時に一番疲れず、夢中になれるか」。そこを徹底的に見つめてください。それがあなたの武器の正体です。

第3章:「戦略」とは「捨てる」ことである

自分の特徴(属性)がわかったら、次に行うべきは「戦略」の立案です。

戦略とは何か。小難しい言葉はいりません。

戦略とは、「選ぶこと」であり、同時に「捨てること」です。

人生におけるリソース(時間、体力、情熱)は有限です。あれもこれもと手を出している暇はありません。

「ここなら勝てる」という戦場を定めたら、それ以外のことには目をつぶり、リソースを一点集中させる必要があります。

多くの人は、選択肢を捨てることを怖がります。「もしこっちがダメだったらどうしよう」と保険をかけたがる。しかし、リソースが分散した状態では、強烈な競合がいる戦場で勝つことは不可能です。

例えば、私がP&GからUSJに移った時、あるいは独立して「刀」を作った時。

私は「数学的思考でマーケティングの正解を導き出す」という一点に自分のキャリアを賭けました。

私には愛想の良いコミュニケーションや、根回しのような社内政治はできません。あるいは、アーティスティックな感性でデザインを作ることもできません。それらはすべて捨てました。

その代わり、「数字を使って消費者の頭の中を透視し、売上を伸ばす」ことに関しては、誰にも負けない自信があったし、そこに全てを注ぎ込みました。

「自分は何をしないか」を決めてください。

あなたの特徴が活きないこと、あなたが情熱を持てないことに、貴重な人生の時間を費やしてはいけない。

捨てる勇気を持った人間だけが、選んだ道で輝くことができるのです。

第4章:情熱という名の「エンジン」

なぜ、そこまでして「勝てる戦場」を選ばなければならないのか。

それは、「情熱(熱量)」の問題に行き着きます。

どんなに頭の良い戦略があっても、それを実行に移し、困難を乗り越えてやり遂げるためのエネルギーが必要です。それが情熱です。

車で言えば、戦略は「地図」や「ハンドル」ですが、情熱は「エンジン」です。エンジンが動かなければ、車は1ミリも進みません。

では、情熱はどこから湧いてくるのか?

それは「自分の好きなこと、得意なことをやっている時」にしか湧いてこないのです。

嫌いなこと、苦手なことをやっている時、人の脳はブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいるような状態になります。これではすぐにオーバーヒートしてしまいます。

しかし、自分の属性に合ったことをしている時、人は疲れを知りません。没頭できます。

この「没頭できる」という才能こそが、競争社会における最強の優位性です。

私が数式をいじり回している時、あるいは消費者のインサイト(深層心理)が見えた瞬間、私はアドレナリンが出まくっています。だからこそ、人が寝ている間も考え続けられるし、圧倒的なアウトプットが出せる。これを「努力」とは呼びません。夢中になっているだけです。

人生で一番大事なことは、あなたが「夢中になれる状態」を、意図的に作り出すことです。

そのためには、やはり自分の属性を知り、それが活きる環境に身を置くしかないのです。

第5章:社会への提供価値と自己実現

ここまで「自分」の話をしてきましたが、視点を「社会」に向けてみましょう。

ビジネスでも人生でも、報酬(お金、感謝、地位)というのは、「相手に与えた価値」の対価として得られるものです。

あなたが自分の属性を活かし、勝てる戦場で最大のパフォーマンスを発揮することは、単なる自己満足ではありません。それが、社会に対してあなたが提供できる価値を最大化することにつながるのです。

苦手を克服しようとして平均的な仕事をするよりも、強みを活かして卓越した仕事をする方が、間違いなく世の中のためになります。

魚は泳ぐことで生態系に貢献し、鳥は飛ぶことで役割を果たします。魚が空を飛ぼうと努力しても、誰の役にも立ちません。

あなたが、あなたらしくあること。

あなたが持って生まれた「手札(特徴)」を、最強のカードとして切れる場所を見つけること。

それが、あなた自身を幸福にするだけでなく、周りの人間をも幸福にする唯一の方法です。

結論:覚悟を持って、自分の道を選べ

最後に伝えたいのは、「自分の人生の経営者は、自分しかいない」ということです。

親がどう言ったか、世間体がどうか、友人が何をしているか。そんな変数は、あなたの方程式には関係ありません。

重要なのは、「あなたという人間(定数)」を、どの変数(環境)とかけ合わせれば、解(成果・幸福)が最大になるかという、冷徹な計算です。

もし今、あなたが「人生がうまくいっていない」「苦しい」と感じているなら、それはあなたの能力が低いからではありません。

戦う場所を間違えているか、戦い方を間違えているだけです。

あなたが悪いのではなく、あなたの「戦略」が間違っているのです。

恐れることはありません。

自分自身を見つめ直し、属性を見極め、戦場を変える決断をしてください。

環境が変われば、人は劇的に変わります。

私自身がそうでしたし、私が再生させてきた多くの企業や、指導してきた多くの部下たちがそれを証明しています。

人生で一番大事なこと。

それは、自分の特徴という「宝の地図」を読み解き、自分だけの「勝ち筋」を見つけること。

そして、その道を進むことに、腹を括ることです。

あなたの人生というマーケティング・プロジェクトが、大成功を収めることを心から願っています。

さあ、悩んでいる暇があったら、動き出しなさい。確率は、自ら動く者にのみ収束するのですから。