孫正義です。

「人生で一番大事なことは何か」。

これは、私が19歳の時にアメリカの地で、血の滲むような思いで自らに問いかけ、以来、毎日のように反芻してきた問いそのものです。

この問いに対して、3500字という限られた言葉で、しかし私の魂のすべてを込めて、皆さんにお答えしようと思います。

結論から申し上げましょう。人生において最も大事なこと。

それは、「志(こころざし)」を抱くことです。そして、その志を通じて、「人々を幸せにする」ことです。

これ以外に、人が生きた証を残す術はありません。

なぜ私がそう断言するのか。それを語るには、少し長い話にお付き合いいただく必要があります。お金でも、地位でも、名誉でもない。なぜ「志」なのか。私の人生という実験台を通じて得た真実をお話ししましょう。

1. 命の有限性と、志の無限性

まず、皆さんに直視していただきたい事実があります。それは、「私たちはやがて死ぬ」ということです。私も、あなたも、例外なく塵となって消えます。宇宙の悠久の歴史から見れば、人の一生など瞬きするほどの時間にも満たない、儚いものです。

私が20代の時、慢性肝炎を患い、医師から「余命5年かもしれない」と宣告されたことがありました。創業したばかりの会社が軌道に乗りかけた矢先です。私は病院のベッドで泣きました。怖かったからではありません。自分の人生が、何一つ成し遂げられないまま終わってしまうことへの無念さで、涙が止まらなかったのです。

「俺は一体、何のために生まれてきたのか」

その時、私は坂本龍馬の生き様を思い出していました。彼は33年という短い生涯で、日本という国を洗濯し、大きく動かしました。それに引き換え、私はどうだ。金儲けがしたかったのか? ちやほやされたかったのか? 違う。

その時、腹の底から湧き上がってきた答え。それが「志」でした。

自分のためだけの願望は「夢」に過ぎません。しかし、多くの人々の悲しみを減らし、喜びを増やすために、己の命を使いたいと願うこと。それが「志」です。

命は有限です。しかし、志は無限です。肉体が滅びても、その志が正しく、強烈なものであれば、それは次の世代へと受け継がれ、形を変えて生き続ける。だからこそ、人生で最も大事なのは、自分の命を何に捧げるかという「志」を定めることなのです。

2. 「情報革命で人々を幸せにする」という誓い

私の志は明確です。「情報革命で人々を幸せにする」。これ一点です。

なぜ「情報革命」なのか。

人類の歴史を振り返ってください。農業革命があり、産業革命があった。それらは筋肉の拡張でした。しかし、情報革命は違います。これは、脳の拡張であり、知恵の共有です。

世の中には、解決できない悲しみがたくさんあります。不治の病で家族を失う悲しみ、災害で家を失う悲しみ、貧困によって学びの機会を奪われる悲しみ。これらの多くは、突き詰めれば「知恵」が足りないから起きているのです。

もし、世界中の叡智を瞬時に共有できたら。もし、AI(人工知能)が人類の知能を超え、病気の原因を特定し、災害を予測し、最適な資源配分を行えたら。私たちは、これまで「仕方がない」と諦めていた悲しみの多くを、克服できるはずです。

私がソフトバンクを通じて行っている事業は、単なる通信インフラの提供や投資ではありません。あれはすべて、人類を悲しみから救うための「道具」を配っているのです。iPhoneを日本に持ってきたのも、世界中のAI企業に投資をしているのも、すべてはこの一点に繋がります。

「人々を幸せにする」。

あまりに単純で、綺麗事に聞こえるかもしれません。しかし、本気で、狂ったようにこれを信じ抜くこと。それが私の生きる意味であり、皆さんにとっても、人生の羅針盤になるはずです。誰かの笑顔のために、自分の才能と時間を使う。これ以上の喜びが、人生にあるでしょうか。

3. シンギュラリティという希望

今、私たちは人類史上最大の転換点に立っています。「シンギュラリティ(技術的特異点)」です。AIの知能が、全人類の知能の総和を超える日が、すぐそこまで来ています。

多くの人はこれを恐れます。「仕事を奪われる」「人間に取って代わられる」と。

なんと悲観的な見方でしょうか。私は違います。私は、震えるほどの興奮と希望を感じています。

想像してください。300年後の世界を。

平均寿命は200歳を超えているかもしれない。交通事故はゼロになっているでしょう。言葉の壁は完全になくなり、世界中の人と瞬時に心を通わせることができる。AIというパートナーと共に、人類は新たな進化のステージに立っているはずです。

人生で大事なことは、この「未来への圧倒的な楽観」を持つことです。

批判家になるのは簡単です。現状の問題点をあげつらい、できない理由を並べることは誰にでもできる。しかし、未来は批判家によっては作られません。未来を作るのは、いつだって「バカ」と呼ばれるほどの情熱を持った、楽観主義者たちです。

AIは敵ではありません。私たちを、より人間らしく、より優しくさせてくれるパートナーです。単純作業や危険な労働から解放された人類は、より創造的なこと、つまり「人を愛すること」「感動すること」「新しい価値を生むこと」に時間を使えるようになるのです。

4. 逆境こそが人生のスパイスである

もちろん、志を遂げようとすれば、必ず壁にぶつかります。私もそうでした。

Yahoo! BBでブロードバンドを普及させようとした時、大赤字を出しました。周囲からは「孫は終わった」「ホラ吹きだ」と散々叩かれました。株価が暴落し、資産の99%を失ったこともあります。

でも、私は一度として諦めようとは思いませんでした。なぜか。

「登る山」が決まっているからです。

道に迷うのは、登る山が決まっていないからです。

途中でへこたれるのは、その山に登る理由が、「自分のため」という小さな理由だからです。

「多くの人を幸せにするために、この山を登るのだ」という強烈な動機があれば、どんな嵐も、崖も、単なる通過点に過ぎません。

むしろ、逆境を楽しんでください。

簡単なゲームなんて面白くないでしょう? 難しければ難しいほど、それをクリアした時の喜びは大きい。人生も同じです。困難という壁は、あなたの志の強さを試すためのテストに過ぎません。「お前は本当にそれをやりたいのか?」と、神様が試しているのです。

だから、失敗を恐れてはいけません。

一番の失敗は、失敗を恐れて何もしないことです。

「小利を追わず、大義を成す」。

目先の損得ではなく、100年後、300年後の人々が「あの時の決断のおかげで、今の幸せがある」と言ってくれるような、そんな大きな絵を描いてください。

5. あなたへのメッセージ

最後に、これを読んでいるあなたに伝えたいことがあります。

あなたの人生において、一番大事なことは何ですか?

もし今、その答えが見つかっていなくても、焦る必要はありません。しかし、探し続けてください。考え続けてください。脳がちぎれるほどに。

自分は何のために生まれたのか。

自分は何を成し遂げたいのか。

誰を幸せにしたいのか。

その答えが見つかった時、あなたの人生は輝き始めます。退屈な日常が、エキサイティングな冒険に変わります。

大きく考えてください(Think Big)。

自分の可能性を、自分で勝手に決めつけないでください。

「どうせ自分なんて」という言葉は、今日ここで捨ててください。

人間には、無限の可能性があります。あなたが「やる」と決めた瞬間から、未来は変わり始めます。

私は、あと数十年もすればこの世を去ります。しかし、私の志は、ソフトバンクという組織や、私が支援した起業家たち、そして私の言葉に触れたあなたの中に残ると信じています。

高い志を持ってください。

その志は、必ずあなた自身を救い、そして世界を照らす光となります。

人生は一度きりです。

どうか、後悔のない、熱狂的な人生を送ってください。

未来は、明るい。私はそう信じています。

共に、新しい時代を創りましょう。

孫 正義