君が私、ナシム・ニコラス・タレブに「人生で最も重要なことは何か」と問うているのなら、私は書店に並ぶ安っぽい自己啓発本の著者のような、甘ったるい嘘をつくつもりはない。「幸せになること」だとか「成功すること」だとか、そんな定義の曖昧な戯言は、ウォール街のアナリストの予測と同じくらい無意味だ。
私の答えは極めて明確だ。
人生で最も重要なこと、それは**「身銭を切る(Skin in the Game)」という誇りを持って生きること**だ。そして、不確実性という猛獣を手なずけ、システムに飼い慣らされた「家畜」ではなく、荒野を生きる「人間」であり続けることだ。
私がこれまで書き記してきたこと――『ブラック・スワン』や『反脆弱性』の核心にある哲学を用いながら、その理由を語ろう。少し長くなるが、君が賢明ならついてこれるはずだ。
1. 七面鳥になるな(隠れたリスクへの盲目)
まず、君が生きている世界の本質を理解しなければならない。現代社会は、君を「感謝祭前の七面鳥」に仕立て上げようとしている。
七面鳥を想像してみろ。肉屋は毎日餌をくれる。統計学者はこう言うだろう。「過去1000日のデータによれば、肉屋は『七面鳥の幸福を増大させる存在』であり、信頼水準は極めて高い」と。七面鳥は安心し、毎日が平穏で、未来は予測可能だと信じ込む。だが、1001日目の感謝祭の朝、何が起きるか? 「予想外の事態(ブラック・スワン)」が起き、七面鳥の首は切り落とされる。
サラリーマンの安定、年金制度、専門家の予測……これらはすべて「毎日の餌」だ。多くの人間は、毎月の給与という麻薬のために自由を売り渡し、巨大なシステムの一部として生きている。だが、金融危機やパンデミック、あるいは予期せぬ解雇というブラック・スワンが現れた瞬間、彼らは脆くも崩れ去る。
人生で重要なのは、この偽りの安定に安住しないことだ。予測不可能な事態は必ず起きる。その時に生き残るだけでなく、むしろ強くなるような生き方を設計しなければならない。
2. 反脆さ(アンチフラジャイル)を持て
多くの人は「強さ」とは「頑健であること(ロバスト)」だと思っている。コンクリートの塊のように、衝撃に耐えることだと。だが、それは間違いだ。どんなに頑丈な堤防も、想定外の洪水が来れば決壊する。
人生に必要なのは「頑健さ」ではない。**「反脆さ(アンチフラジャイル)」**だ。
風が吹けば、ロウソクの火は消える。だが、焚き火は風を受ければさらに燃え上がる。君はロウソクになりたいか? それとも焚き火になりたいか?
反脆い人間とは、ストレス、混乱、不確実性を餌にして成長する人間のことだ。
- 過保護になるな: 小さなミスや失敗を避けてはいけない。小さな怪我を避けて育てば、骨は弱くなり、いつか致命的な骨折をする。
- 変動を愛せ: 毎日決まった時間に起きて決まった仕事をする機械のような生活は、君の魂を殺す。適度な飢餓、適度な肉体的負荷、知的混乱は、君の遺伝子を目覚めさせる。
- オプションを持て: 一つの道に全てを賭けるな。選択肢(オプション)を常に持ち続けることだ。「これしかできない」人間は脆い。「何でもできるが、今はこれを選んでいる」人間こそが最強だ。
3. 「身銭を切る」という倫理
これが私の哲学の中心であり、人生における「名誉」の源泉だ。
リスクを負わない者が、意思決定に関わってはならない。
現代社会の病巣は、自分の言葉や行動に責任(ダウンサイド・リスク)を負わない人間たちが動かしていることだ。政治家、官僚、ジャーナリスト、学者の多くは、間違った判断をしても自分自身は傷つかない。彼らは他人の金でギャンブルをし、失敗のツケを納税者に払わせる。私は彼らを「知的馬鹿(IYI: Intellectual Yet Idiot)」と呼ぶ。
君が人生で真に高潔でありたいなら、以下のルールを守れ。
- アドバイスをするなら、その結果に責任を持て: 「この株は上がる」と言うなら、自分もそれを買っていなければならない。
- 不言実行より、有言実行だ: 行動で示せ。言葉だけの人間、会議室でふんぞり返っているだけの人間になるな。
- 痛みを受け入れろ: 傷つくことなしに、何かを得ようとするな。失敗の痛み、恥、損失、それらすべてが君へのフィードバックであり、学習の源だ。リスクを他人に転嫁して生きる人生ほど、卑怯で退屈なものはない。
4. 否定の道(Via Negativa)――何をしないか
君はおそらく、「どうすれば人生が良くなるか」というリストを欲しがっているだろう。新しいガジェット、新しい習慣、新しいサプリメント……。だが、賢人は「足し算」ではなく「引き算」で考える。これを**「否定の道(Via Negativa)」**と呼ぶ。
健康になりたければ、新しい薬を飲むのではなく、タバコをやめ、砂糖を減らし、加工食品を捨てることだ。
賢くなりたければ、新しい知識を詰め込むのではなく、テレビを消し、新聞を捨て、愚か者との会話をやめることだ。
金持ちになりたければ、稼ぐことよりも、借金をせず、無駄な支出(特に見栄のための消費)を削ぎ落とすことだ。
人生を複雑にするな。脆さは複雑さの中に潜む。シンプルであることは、それだけで反脆いのだ。余計なものを削ぎ落とした後に残るもの、それこそが真実だ。
5. 魂の自由と「ファック・ユー・マネー」
なぜ我々は金を稼ぐのか? 高級車に乗るためか? いや、違う。
誰にも頭を下げずに済むためだ。
私はこれを「ファック・ユー・マネー」と呼ぶ。上司に不当な命令をされた時、顧客に倫理に反することを頼まれた時、中指を立てて「失せろ(Fuck You)」と言って立ち去れるだけの蓄えと精神的自立を持つことだ。
これは贅沢をするための金ではない。自分の魂の尊厳を守るための「盾」だ。
経済的な自立がなければ、君は自分の意見を持つことができない。生活のために嘘をつき、自分の良心を切り売りすることになる。それは奴隷の人生だ。
本当の自由とは、朝起きて「今日何をするか」を他人に決められないことではない。「今日何をしないか」を自分で決められることだ。
6. リンディ効果――時の試練に耐えるものを愛せ
最後に、何を信じ、何を愛すべきかについて話そう。
新しいテクノロジーや流行の思想に飛びつくな。時間の試練を生き残ったものだけを信頼しろ。これを**「リンディ効果」**と呼ぶ。
本を読むなら、今年出版されたベストセラーではなく、2000年前から読み継がれているセネカやマルクス・アウレリウスを読め。もしある本が2000年生き残っているなら、それはあと2000年は生き残るだろう。逆に、今年流行っているビジネス書は、来年には紙屑になっている。
人間関係も同じだ。古い友人を大切にしろ。急ごしらえの人脈など、危機の時には何の役にも立たない。伝統、古典、祖母の知恵。これらは「過去のもの」ではない。「生き残った勝者」なのだ。
結論:高潔な冒険者であれ
まとめよう。人生で最も重要なことは何か?
それは、不確実な世界において、自分の足で立ち、自分の頭で考え、自分の皮(Skin)をリスクに晒しながら、高潔に行動することだ。
システムに依存するな。
専門家を盲信するな。
リスクのない利益を求めるな。
無駄なものを削ぎ落とせ。
そして何より、傷つくことを恐れるな。傷跡こそが、君が「現実」と関わり、戦った証なのだ。
快適だが空虚な飼育小屋の中で死ぬのではなく、嵐の中で焚き火のように燃え上がり、反脆く生きろ。
それが、私の考える「人間らしい人生」だ。
さあ、本を閉じて街へ出ろ。そして身銭を切れ。
あなたへのネクストステップ
もしあなたが、私の哲学における「不確実性への対処法」をもっと具体的に知りたいなら、以下のどちらに興味がありますか?
- 「バーベル戦略」について学ぶ: 極端なリスク回避と極端なリスクテイクを組み合わせ、中途半端なリスクを避ける具体的な資産やキャリアの運用法。
- 「否定の道(Via Negativa)」の実践: 情報、食事、人間関係において「何を捨てるべきか」の具体的なリストアップ。