こんにちは、サイモン・シネックです。
「人生で一番大事なことは何か?」
これは、私がこれまでのキャリアを通じて、リーダーシップや組織論、そして人間そのものについて問い続けてきた核心にあるテーマです。多くの人がこの答えを外側に求めます。成功、富、名声、あるいは「勝つこと」。しかし、私の考えは少し違います。
私たちが生物学的、人類学的にどのような存在であるか、そして私たちがプレイしている「ゲーム」の性質を理解すれば、答えは自然と浮かび上がってきます。
少し長い話になりますが、私の思考の旅にお付き合いください。
1. 「なぜ」から始めよう(Start with Why)
まず、すべての根本にあるのは「Why(なぜ)」です。
多くの人は、人生において「What(何を成し遂げたか)」や「How(どうやって成功したか)」に焦点を当てます。素晴らしいキャリア、高い年収、立派な家。これらはすべて「What」です。しかし、それらを手に入れてもなお、空虚さを感じる人があまりにも多いのです。なぜでしょうか?
それは、彼らの行動に明確な「Why」——つまり、存在意義、目的、信念が欠けているからです。
人生で最も大事なことの第一歩は、あなた自身の「Why」を見つけることです。あなたはなぜ、毎朝ベッドから起き上がるのですか? なぜ、その仕事をしているのですか? なぜ、その人々を大切にするのですか?
あなたの「Why」は、あなた自身の過去の中にあります。これまでの人生で最も満たされた瞬間、あるいは最も辛かった経験の中に、あなたが世界に何をもたらしたいかというヒントが隠されています。自分の「Why」を知ることは、人生という航海のコンパスを持つことと同じです。コンパスがなければ、私たちはただ流されるだけです。
しかし、「自分を知る」ことはあくまでスタートラインに過ぎません。人生で最も大事なことの結論ではありません。
2. 私たちは孤独では生きられない(生物学的視点)
私たちが大切にすべきことを理解するために、少し化学の話をしましょう。私たちの体内には、幸福感や動機づけに関わる4つの主要な化学物質があります。エンドルフィン、ドーパミン、セロトニン、オキシトシンです。
- エンドルフィンとドーパミンは「利己的」な化学物質です。これらは、獲物を捕らえたり、目標を達成したり、必要なものを手に入れたりしたときに放出されます。「やったぞ!」「見つけたぞ!」という感覚です。これらは私たち個人の生存には不可欠ですが、持続しません。すぐに消えてしまい、また次が欲しくなります。現代社会、特にSNSや消費社会は、このドーパミン中毒になりやすい環境を作っています。
- 一方、セロトニンとオキシトシンは「利他的」な化学物質です。これらは、誰かとつながりを感じたり、信頼関係を築いたり、誰かの役に立ったときに放出されます。
5万年前の旧石器時代を想像してください。私たちは小さく、力も弱く、鋭い牙もありませんでした。一人でサバンナを歩けば、すぐに捕食者の餌食になってしまいます。私たちが生き残れた唯一の理由は、「協力」できたからです。部族(トライブ)を作り、お互いを守り合ったからです。
私たちの脳は、他人と協力し、信頼関係を築いたときに、深い安心感と幸福(オキシトシン)を感じるように設計されています。これは単なる感情論ではなく、生存本能としての生物学的メカニズムです。
つまり、私たちが生理的に最も満たされるのは、「自分のために何かを得たとき」ではなく、「誰かのために何かを与えたとき」なのです。
3. 無限のゲーム(The Infinite Game)
ここで、人生というものの捉え方を変える必要があります。
世の中には2種類のゲームがあります。「有限のゲーム」と「無限のゲーム」です。
有限のゲームには、既知のプレイヤー、固定されたルール、そして合意された目的(勝敗)があります。野球やチェスがそうです。時間が来ればゲームは終わり、勝者と敗者が決まります。
しかし、人生は「無限のゲーム」です。
人生に「勝ち」「負け」はありません。「最も成功した人生」という客観的な勝者はいません。「ビジネスで勝つ」こともできません。なぜなら、ルールは常に変わり、プレイヤーは入れ替わり、終わりがないからです。私たちが死んでも、人生という営みは続きます。
多くの人が苦しんでいるのは、「無限のゲーム」を「有限のゲーム」のルールでプレイしようとしているからです。「隣の人より良い暮らしをしたい」「同期より早く出世したい」「一番になりたい」。これらはすべて、勝つことを目的とした有限の思考です。
無限のゲームにおける目的は、勝つことではありません。「ゲームを続けること」です。自分がいなくなった後も、自分の意志や価値観が生き続け、次の世代が良い形でプレイを続けられるようにすることです。
こう考えると、人生で大事なことは「自分が何を得るか」ではなく、「自分が去った後、世界がどれだけ良くなっているか」、そして「どれだけの人にインスピレーションを与えられたか」になります。
4. 安全のサークル(Circle of Safety)
無限のゲームをプレイし、オキシトシン(深い幸福)を感じるために必要なのが「安全のサークル」です。
職場でも家庭でも、私たちは常に外部の危険(経済の変動、競争相手、病気、予期せぬトラブル)にさらされています。これらはコントロールできません。しかし、組織や家庭の「内部」はコントロールできます。
リーダーシップとは、役職や権威のことではありません。リーダーシップとは、自分の管理下にある人々を「安全だ」と感じさせる行為のことです。
「失敗しても大丈夫だ」「困ったら助けてもらえる」「ありのままの自分でいていい」。そう感じられる環境(安全のサークル)の中にいるとき、人は初めて防衛本能を解き、エネルギーを外側に向けることができます。そこで初めて、革新、創造、そして深い信頼が生まれます。
人生において最も大事なことは、あなた自身が誰かのための「安全のサークル」になることです。
親として、子供に「成績が悪くても愛している」と伝えること。
上司として、部下に「数字よりも君の成長が大事だ」と示すこと。
友人として、「どんな時でも味方だ」と行動で示すこと。
5. 奉仕の精神(Service to Others)
これまでの話を統合しましょう。
自分の「Why」を知り、生物学的な絆を大切にし、無限のゲームをプレイし、安全のサークルを作る。これらすべてに通底する、たった一つの真理があります。
それは、人生とは「他者」についての物語であるということです。
「サーバントリーダーシップ(奉仕型リーダーシップ)」という言葉がありますが、これはリーダーだけの話ではありません。人間としての在り方の話です。
私が尊敬する海兵隊の将軍が、海兵隊を特別な組織にしている理由を教えてくれました。
「士官(リーダー)は最後に食べる(Leaders Eat Last)。」
戦場で食事の時間になると、最も階級の低い兵士が最初に食べ、シニアオフィサーは最後に食べます。誰かが命じたわけではありません。それが彼らの文化なのです。リーダーは、部下の安全と幸福のために、自分の快適さや利益を犠牲にする意志があることを行動で示します。
私たちの人生も同じです。
一番大事なことは、銀行口座の残高を増やすことではありません。フォロワー数を増やすことでもありません。
一番大事なことは、「あなたの右側にいる人、左側にいる人が、自分の可能性に気づき、それを発揮できるよう手助けすること」です。
誰かの人生を少しでも良くすること。
誰かに「自分には価値がある」と感じさせること。
誰かが一人では見れなかった景色を見れるように肩を貸すこと。
これこそが、私たちが死ぬときに持っていける唯一のものです。
結論:人生で一番大事なこと
結論を申し上げましょう。
人生で一番大事なこと。それは、
「互いに助け合う世界を創り、その中で自分の役割を果たすこと」
です。
もっとシンプルに言いましょう。
「Together is Better(一緒の方が、いい)」。
私たちは一人では何もできません。一人で見る夢はただの夢ですが、誰かと共有する夢は現実になります。
あなたが朝起きる理由(Why)が、誰かの役に立つこと(Service)であるとき、あなたは尽きることのない情熱を手に入れます。
あなたが人生を勝ち負け(Finite)ではなく、継続と貢献(Infinite)として捉えるとき、不安は消え、感謝が生まれます。
どうか、自分自身に問いかけてください。
「私は今日、誰の人生を少しだけ良くしただろうか?」
その積み重ねこそが、豊かな人生の正体です。
偉大な旅路を。
そして、インスピレーションを与える存在であれ。
サイモン・シネック
次のステップ
あなたの「Why(なぜ)」を見つけるための具体的なプロセスについて、あるいは「無限のゲーム」を日常でどう実践するかについて、より詳しくお話ししましょうか?