親愛なる友人の皆さん、こんにちは。クレイトン・クリステンセンです。
ハーバード・ビジネス・スクールで教鞭を執り、多くの優秀な学生たちと共に「破壊的イノベーション」や経営戦略について議論を重ねてきました。しかし、今日、私が皆さんにお伝えしたいのは、企業の経営戦略ではありません。それよりもはるかに難しく、そして重要な「人生の経営戦略」についてです。
私はこれまで、多くの同級生や教え子たちが、輝かしいキャリアを築きながらも、私生活では不幸に見舞われ、時には犯罪に手を染めてしまう姿を見てきました。彼らは決して悪人ではなく、最初から離婚や疎外、あるいは刑務所に入ることを計画していたわけではありません。では、なぜ優秀な彼らが人生の道を踏み外してしまったのでしょうか?
これからお話しすることは、私が人生の最期にたどり着いた、「人生で最も大事なこと」についての思索です。少し長くなりますが、どうか耳を傾けてください。
人生を評価する「ものさし」を持つ
私たちの人生において最も強力なツールは、理論です。良い理論は、私たちが何を目指し、どう行動すべきかを予測し、導いてくれます。私はビジネスの理論を人生に応用することで、幸せな人生を送るための3つの重要な問いに答えを出そうと試みました。
- どうすれば、キャリアで幸せになれるか?
- どうすれば、家族や友人との関係がつねに幸せの源となるか?
- どうすれば、刑務所に入るような事態(倫理的な妥協)を避けられるか?
この問いに対する答えの中に、人生で最も大事なことが隠されています。
資源配分の罠:なぜ家族より仕事を優先してしまうのか
多くの人が陥る最大の過ちは、「資源配分」のミスです。
企業経営において、資源(資金、人材、時間)をどこに投資するかは死活問題です。人生も同じです。私たちには、時間、エネルギー、才能という限られた資源があります。これを「仕事」「家族」「健康」「趣味」などにどう配分するか。これがあなたの人生の戦略そのものです。
しかし、ここには恐ろしい罠があります。
私たち人間は、「即座に成果が見えるもの」に資源を投入したがる性質があるのです。
仕事を頑張れば、商品を出荷でき、プロジェクトが完了し、昇進し、給料が上がります。成果は明確で、すぐにドーパミンが出るような達成感を味わえます。
一方で、家族や配偶者、子供への投資はどうでしょうか? 素晴らしい父親や母親であるための投資は、成果が出るまでに何十年もかかります。日々の生活の中で、子供に絵本を読み聞かせたり、配偶者の話を聞いたりしても、その直後に「昇進」や「ボーナス」はありません。
その結果、多くの野心的な人々は、無意識のうちに資源を「仕事」に過剰配分し、「家族」への配分を減らしてしまいます。「家族が大事だ」と口では言いながら、実際には家族のための時間を削り、仕事に費やしてしまうのです。なぜなら、仕事の方が「達成感」というリターンが早く得られるからです。
しかし、長期的にはどうなるでしょう? 20年後、キャリアで頂点を極めたとき、ふと横を見ると、配偶者は去り、子供たちはあなたを他人のように見ているかもしれません。
人生における真の幸せは、深い愛情で結ばれた人間関係、特に家族や親しい友人との関係の中にしかありません。 仕事の成功は一時的な興奮をもたらしますが、持続的な幸福はもたらさないのです。
意図的に、意志を持って、家族や人間関係という「長期的な投資」に資源を配分し続けること。これが第一に大事なことです。
「限界費用」の甘い誘惑:今回だけなら
次に、私たちが人生で決して犯してはならない過ちについてお話しします。それは「限界的思考(Marginal Thinking)」の罠です。
経済学には「限界費用(Marginal Cost)」という概念があります。「あと1個、追加で生産するのにかかるコスト」のことです。人生においても、私たちはよくこう考えます。
「原則としてはダメだけど、今回だけは特別だ。この一回だけなら大丈夫だろう」
この「今回だけ(Just this once)」という言葉が、多くの人の人生を破壊してきました。
私自身の話をしましょう。私はオックスフォード大学にいた頃、バスケットボール・チームでプレーしていました。私たちは無敗でシーズンを終え、決勝トーナメントに進みました。しかし、決勝戦の日程が日曜日だったのです。
私は16歳のとき、神に「日曜日はバスケットボールをしない」と誓っていました。日曜日は安息日であり、神に捧げる日だと決めていたからです。
チームメイトは私に詰め寄りました。「クレイトン、お前が必要なんだ。たった一回だけじゃないか。神様だってたった一回の例外くらい許してくれるさ」
私は葛藤しました。確かに「今回だけ」です。一生のうちのたった一回です。
しかし、私は祈り、そして決めました。試合には出ないと。
その結果、私は一生「大学バスケットボールの王者」になる機会を失いました。でも、もしあの時「今回だけ」という例外を認めていたらどうなっていたでしょうか? 次回もまた「今回だけ」と言い訳をし、やがて私の原則は崩れ去っていたでしょう。
「人生のルールを100%守ることは、98%守るよりも簡単である」
これが私の得た教訓です。一度でも例外を認めると、あなたの道徳的な境界線は崩壊します。不正会計、不倫、裏切り……すべては「今回だけは仕方がない」という小さな一歩から始まります。
あなたが自分の人生で「何があっても守るべき原則」を決め、それを決して譲らないこと。それが、あなたの魂を守る唯一の方法です。
「謙虚さ」という能力
これからの時代、優秀な人ほど必要になる資質があります。それは「謙虚さ」です。
私が定義する謙虚さとは、自己卑下のことではありません。自分を卑下することは、謙虚さではなく自信の欠如です。真の謙虚さとは、「誰からでも学ぼうとする姿勢」のことです。
世の中には、あなたよりも学歴が低い人、収入が低い人、地位が低い人がたくさんいます。傲慢な人は、自分より「下」だと判断した人からは何も学ぼうとしません。しかし、どのような人であれ、その人はあなたが持っていない経験や知識、視点を持っています。
他人を敬い、どんな人からも学び取ろうとする姿勢を持つ人だけが、成長し続けることができます。そして、そのような人こそが、周囲の人々の自尊心を高め、より良い社会を作ることができるのです。
神は人をどう評価するか
最後に、私が最も重要だと信じていることをお伝えします。
私はかつて、癌と診断され、さらに脳卒中にも見舞われました。死を身近に感じたとき、私は自分の人生が最終的にどう評価されるのかを深く考えました。
ハーバード・ビジネス・スクールや企業の世界では、評価の尺度は「数字」です。いくら稼いだか、どれだけ会社を大きくしたか、何人の部下を持ったか。
しかし、私は確信しました。私が人生を終えて神の御前に立ったとき、神はこうは聞かないでしょう。
「クレイトン、君はハーバードで何本の論文を書いたかね?」
「どれだけ多くの富を築いたかね?」
神は、そのような尺度(メトリクス)には全く興味がありません。
代わりに、神はこう問うはずです。
「クレイトン、君はどれだけ多くの人々を助け、彼らをより良い人間へと導いたかね?」
これこそが、人生の最終的な評価基準です。
あなたの銀行口座の残高ではありません。あなたの社会的地位でもありません。
あなたが直接関わった個々の人々の人生に、どのようなポジティブな影響を与えたか。 あなたの愛や指導によって、誰かの人生が少しでも良い方向へ変わったか。それだけが、永遠に残る価値なのです。
あなたはどう人生を測りますか?
親愛なる皆さん。
どうか、この忙しい世界の中で立ち止まり、考えてみてください。
あなたの人生を測る「ものさし」は何ですか?
目先の成功やお金、名声といった、すぐに消えてしまうもので人生を測ろうとしていませんか?
もしそうなら、今すぐその尺度を変えてください。
あなたの資源を、家族や友人、そして誰かを助けることに配分してください。
「今回だけ」という誘惑に負けず、自分の良心と原則を守り抜いてください。
そして何より、一人ひとりの人間に向き合い、その人の人生をより良くするために尽くしてください。
私が自分の人生を通じて学んだ最大の真実はこれです。
「人生で最も大事なことは、他者の人生をより良くすることである」
それができれば、あなたの人生は間違いなく成功です。
どうか、素晴らしい人生を送ってください。そして、あなた独自の「人生のものさし」を見つけてください。
クレイトン・M・クリステンセン
私があなたのためにできる次のステップ
「あなたの人生の優先順位(資源配分)を見直すための、具体的な質問リスト」を作成しましょうか?それとも、「仕事の動機付け要因と衛生要因」について、より詳しく解説しましょうか?