こんにちは、オースティン・クレオンです。
「人生で一番大事なことは何か?」
これは、僕が普段、白い紙と黒いマーカーを持って、新聞記事から言葉を浮き彫りにする「ブラックアウト・ポエトリー」を作るときよりも、はるかに壮大で、少しばかり恐ろしい問いですね。
僕はテキサスのオースティンで、絵を描き、文章を書き、そして毎日何かを作り続けている一人の人間に過ぎません。哲学者でもグルでもない。けれど、クリエイティブな生活について考え、書き続けてきた経験から、この「人生」という、終わりのないプロジェクトについて僕が信じていることをお話ししましょう。
もし、たった一つだけ答えを選ばなければならないとしたら、それは「注意を払うこと(Pay Attention)」です。
しかし、それだけではあまりに短すぎて、あなたの問いに十分に答えたことにはなりませんね。だから、僕がこれまでの著書(『クリエイティブの授業』や『クリエイティブを共有!』、『クリエイティブを続ける』など)を通じて探求してきた、「より良く生きるための原則」を織り交ぜながら、なぜ「注意を払うこと」がすべての核心なのか、そしてどうすればクリエイティブで豊かな人生を送れるのかについて、少し長く語らせてください。
1. 君は君が愛するものの「リミックス」である
まず、肩の荷を下ろしてください。「自分自身を見つける」とか「オリジナリティあふれる独自の人生を生きる」なんていうプレッシャーは、今すぐゴミ箱に捨てていい。
人生において最も重要な真実の一つは、「何ひとつとして、オリジナルなものはない」ということです。
芸術であれ、キャリアであれ、人生そのものであれ、すべては以前にあったものの影響を受けています。僕たちは皆、遺伝子のリミックスであり、両親のリミックスであり、出会った友人、読んだ本、見た映画、聴いた音楽、訪れた場所の集大成です。
人生で大事なのは、自分が「何者か(名詞)」になろうとすることではなく、自分が愛するもの、共鳴するものを必死にかき集めることです。
ゴミ(質の悪い情報や人間関係)を入れれば、ゴミしか出てきません。逆に、美しいもの、知的なもの、ワクワクするものを自分の中にインプットし続ければ、君というフィルターを通して、新しい何かが生まれます。
だから、人生で大事なのは、「何に影響を受けるか」を慎重に選ぶことです。自分のヒーローを見つけ、そのヒーローが誰を崇拝していたかを調べ、その系譜をたどってください。そうやって自分の「系統樹」を作るのです。それが君の人生の土台になります。
2. 「アマチュア」の精神を持ち続けること
多くの人は「プロフェッショナル」になることを目指します。もちろん、仕事でお金を稼ぐことは重要です。でも、人生を豊かにするのは「アマチュアの精神」です。
アマチュア(Amateur)の語源は、ラテン語の「amator」、つまり「愛する人」です。アマチュアは、名声や金のためではなく、ただその行為が好きだからそれをします。
人生において大事なのは、結果やステータスではなく、プロセスそのものを愛することです。初心者の心を持ち、失敗を恐れず、恥をかくことを厭わないこと。
知ったかぶりをするのをやめましょう。「わかりません、教えてください」と言える勇気を持つこと。そして、自分の学んだこと、発見したことを、惜しみなく他者と共有することです。
秘密主義は退屈です。自分の持っている知識や喜びを、ほんの少しずつでも毎日世界に発信してみてください(「Show Your Work」)。そうすることで、君は自分の「部族(トライブ)」、つまり同じ魂を持つ仲間たちと出会うことができます。孤独な天才(Genius)を目指すのではなく、仲間と共に才能を開花させる「シーニアス(Scenius)」の一部になること。それが、人生を孤独なサバイバルから、豊かな共創の場へと変えてくれます。
3. アナログの時間を取り戻す
僕たちは今、スクリーンの光に照らされた世界に生きています。スマートフォンは、世界中の知識にアクセスできる魔法のデバイスですが、同時に僕たちの注意力を細切れにし、魂をすり減らすスロットマシンでもあります。
人生で本当に大事なことは、画面の中ではなく、画面の外で起こります。
僕はよく言いますが、「手」を使ってください。
キーボードを叩くだけでなく、ペンを握り、紙に線を引く。土をいじる。楽器を弾く。料理をする。人間の脳は、手が動いているときに最も活発に働きます。
そして、あえて「退屈」する時間を作ること。
常に情報を浴び続けていると、脳は入ってくる情報を処理するだけで手一杯になり、新しいアイデアや感情を醸成する隙間がなくなります。散歩に出かけてください。ヘッドフォンを外し、ポッドキャストも音楽も消して、ただ世界を「見る」のです。
歩くことは、心と体の結びつきを取り戻すための、最もシンプルで強力な魔法です。人生の迷路に迷い込んだとき、答えはGoogle検索の結果ではなく、近所を散歩しているふとした瞬間に見つかるものです。
4. 日々のルーティンと「聖域」
情熱やインスピレーションは過大評価されています。人生は、劇的な瞬間の連続ではありません。人生とは、朝起きて、何をして、どうやって夜眠りにつくか、その繰り返しのことです。
だからこそ、「日々のルーティン」を味方につけることが極めて重要です。
カレンダーを用意してください。毎日、自分が大切にしたいこと(創作、運動、学習など)をやったら、その日に「×」印をつける。その連鎖を断ち切らないこと。このシンプルな「鎖をつなぐ(Don’t break the chain)」行為が、長い目で見れば偉大な成果を生み出します。
そして、自分だけの「至福のステーション(Bliss Station)」を持ってください。
それは特定の場所でもいいし、特定の時間でもいい。そこでは誰にも邪魔されず、スマホの通知も切って、自分自身と向き合うことができる場所です。世界がどれほど狂気じみていても、そこに行けば自分を取り戻せる。そんな聖域を持つことが、正気を保ちながら長く生き抜く秘訣です。
5. 「やらないこと」を決める
人生は短いです。でも、無駄なことをしなければ、十分に長いとも言えます。
現代社会は「もっとやれ」「もっと生産的になれ」と急き立てます。でも、クリエイティブに生きるためには、「ノー(No)」と言う技術を磨かなければなりません。
すべてのメールに即座に返信する必要はありません。すべての誘いに行く必要もありません。嫌なニュースを四六時中チェックする必要もありません。
自分のエネルギーを守ってください。僕には「ヴァンパイア・テスト」というシンプルなルールがあります。ある人や活動と関わった後、エネルギーが満ちていると感じるか、それとも吸い取られて疲れたと感じるか。もし「ヴァンパイア」だと感じたら、その対象を人生から排除してください。残酷に聞こえるかもしれませんが、自分の内なる火を絶やさないためには必要なことです。
6. 終わりについて考える(メメント・モリ)
最後に、少し重い話をしましょう。
人生で一番大事なことを理解するためには、「いつか死ぬ」という事実を直視する必要があります。
これは悲観的な意味ではありません。むしろ、死を意識することで、今日という一日の鮮やかさが増すのです。
毎朝、「今日生きていることはラッキーだ」と思うこと。
そして、今日が人生最後の日だとしたら、今悩んでいることは本当に悩む価値があることなのかを自問すること。
この視点を持つと、他人に親切にすることがいかに重要かが見えてきます。
僕たちは皆、同じ船に乗っていて、誰もが何かと戦っています。だから、基本的には「ナイス(親切)」であってください。
才能があるのに嫌な奴よりも、才能はそこそこでも一緒にいて気持ちのいい奴の方が、人生という長いゲームではずっと遠くまで行けます。
結論:すべては「注意を払うこと」に帰結する
さて、ここまで色々と話してきましたが、結局のところ、これらすべてを統括するのは、最初に言った「注意を払うこと(Pay Attention)」です。
自分の周りの世界に注意を払えば、盗むべき(学ぶべき)素晴らしいアイデアが見つかります。
自分の内側に注意を払えば、自分が何を愛し、何を嫌悪しているかがわかります。
他者に注意を払えば、助けが必要な誰かや、共有できる喜びが見つかります。
時間の経過に注意を払えば、今日という一日がいかに貴重かがわかります。
アメリカの詩人メアリー・オリバーはこう言いました。
「注意を向けること、それが私たちの終わりのない、本来の仕事なのです」
人生の意味を探して遠くへ行く必要はありません。大事なことは、常にあなたの目の前に、足元に、机の上に転がっています。ただ、多くの人がスマホを見たり、未来を心配したり、過去を悔やんだりして、それを見逃しているだけです。
目を開けてください。
耳を澄ませてください。
そして、見たもの、感じたことを、何かの形にしてください。
絵を描いてもいい、文章を書いてもいい、ただ庭に花を植えるだけでもいい。
世界をよく観察し、それに反応すること。そして、そのプロセスを楽しみ、今日一日を生き延び、また明日も続けること(Keep Going)。
それが、僕が考える「人生で一番大事なこと」です。
さあ、話はこれくらいにして、仕事に戻りましょう。
あなたも、何かを作り始めてください。
オースティン・クレオンより
次のステップ
もしこの手紙が気に入ったなら、以下のようなことを試してみませんか?
- 「今日の感謝」リストの作成: 今日1日の中で「注意を払って」見つけた、小さな美しいものを3つ書き出してみる。
- ブラックアウト・ポエトリーの作成: 手元の新聞や古い本の1ページを黒く塗りつぶし、残したい言葉だけを浮かび上がらせて、詩を作ってみる。
- アナログ時間の確保: 今から1時間、デジタルデバイスを完全にオフにして、手を使う作業(料理、散歩、ノート書き)をしてみる。