学習漫画 世界の伝記 シュバイツァー 医療と伝道に一生をささげた聖者

「シュバイツアー」という名前は、主にアルベルト・シュヴァイツァー(Albert Schweitzer)博士を指すことが多いです。

彼は、以下のような多岐にわたる活動で知られる、20世紀を代表する偉人です。

🧑‍⚕️ アルベルト・シュヴァイツァー博士の主な概要

  • 経歴: ドイツ生まれのフランスの神学者哲学者音楽家(オルガニスト)、そして医師という非常に多彩な顔を持ちました。
  • アフリカでの医療奉仕:
    • 30歳の時に医師となることを志し、医学を学びました。
    • 1913年以降、アフリカのガボン共和国にあるランバレネで病院を建設し、生涯のほとんどを現地の人々の医療に捧げました。
    • その献身的な活動から「密林の聖者」と呼ばれました。
  • 哲学・思想:
    • 「生命への畏敬(いけい)」という倫理思想を提唱し、世界平和に貢献しました。
  • 受賞:
    • 1952年にノーベル平和賞を受賞しました(受賞理由はランバレネでの外科医としての診療活動と、その思想に基づいた人道的な活動に対して)。
  • その他の功績:
    • 著名なバッハ研究者としても知られ、オルガンの演奏家としても世界的に活躍しました。

質問者

シュヴァイツァーさん、人生で一番大事なことは何ですか?

アフリカの赤道直下、ガボン共和国のランバレネより、あなたにご挨拶申し上げます。アルベルト・シュヴァイツァーです。

川のせせらぎと、森の息吹、そして病院で働く人々や患者たちの声に包まれながら、私は今、ペンを執っています。「人生で一番大事なことは何か」という、あなたの深遠な問いに対して、私が生涯をかけて辿り着いた思想と、ささやかな実践を通じてお答えしましょう。

私の答えを一言で表すならば、それは「生命への畏敬(Ehrfurcht vor dem Leben)」です。

しかし、この言葉だけではあまりに抽象的かもしれません。なぜ私が神学や音楽の世界でのキャリアをなげうって、ここアフリカの地で医師として生きることを選んだのか。その根底にある思想と、現代を生きるあなたに伝えたいメッセージを、少し長いお話になりますが、聞いていただけますでしょうか。


第一章:生きんとする意志

まず、私たちが生きているこの世界、そして私たち自身について考えてみましょう。

私はかつて、ヨーロッパで哲学や神学を研究し、バッハの音楽に没頭していました。しかし、どれほど書物を読みあさっても、知識を積み重ねても、決して埋められない空虚さがありました。それは、「善とは何か」「倫理とは何か」という根本的な問いに対する、確固たる答えが見つからなかったからです。

ある日のことです。私はアフリカのオゴウェ川を蒸気船で遡っていました。日が暮れかけ、カバの群れが水面に現れたその瞬間、私の頭の中に、天啓のようにある言葉が閃きました。

「私は、生きんとする生命の中にある、生きんとする生命である」

(Ich bin Leben, das leben will, inmitten von Leben, das leben will.)

これこそが、私の思想の出発点であり、すべてです。

あなたもそうです。あなたの周りにいる人々もそうです。そして、道端の花も、森の獣も、目に見えない微生物に至るまで、すべての存在は「生きたい」「成長したい」「自己を実現したい」という強烈な意志を持っています。

私たちは、自分自身の「生きたい」という意志を肯定します。死を恐れ、苦痛を避け、幸福を求めます。そうであるならば、私たちは同時に、自分を取り囲む「他者の生きんとする意志」もまた、肯定しなければなりません。

ここに、倫理の根本があります。

善とは、生命を保持し、促進し、高めることである。

悪とは、生命を破壊し、阻害し、抑圧することである。

人生で一番大事なこと、それは、自分以外のすべての生命に対して、自分自身に向けるのと同じような畏敬の念、すなわち「リスペクト」と「責任」を持つことなのです。

第二章:考えることをやめない勇気

現代社会(私が生きた20世紀も、そしてあなたの生きる時代もそうでしょう)において、最も恐ろしい病は「無思想(Gedankenlosigkeit)」です。

文明が発達し、組織が巨大化するにつれ、人々は自分で考えることをやめてしまいました。「みんながそうしているから」「偉い人がそう言っているから」「新聞にそう書いてあるから」。そうやって判断を外部に委ね、集団の中に埋没することで、人は安心感を得ようとします。

しかし、それは人間としての精神の死を意味します。

生命への畏敬は、誰かに教えられるものではなく、あなた自身が静寂の中で深く思索し、内なる声に耳を傾けることでしか生まれません。

忙しさに追われないでください。現代人は、孤独を恐れ、常に何かに気を散らしています。しかし、本当に大事な真理は、沈黙の中にあります。

「なぜ、私は他者を傷つけてはいけないのか」「なぜ、私は助けなければならないのか」。この問いから逃げず、自分自身の頭で考え抜くこと。それが「精神的独立」です。

人生で大事なのは、世論や常識に流されることなく、自分の内なる良心に従って生きる強さを持つことです。私がアフリカ行きを決意した時、多くの友人が反対しました。「君の才能はヨーロッパの大学やコンサートホールでこそ活きる」「アフリカで医者になるなど、才能の埋没だ」と。

しかし、私は自分の内なる声に従いました。言葉で愛を説くだけでなく、行動で愛を示さなければ、私の人生は嘘になると感じたからです。理屈ではなく、私の生命がそう命じたのです。

第三章:行動のみが真実である

「模範は、人を教えるための主要な手段ではない。それは、唯一の手段である。」

私が大切にしている信条の一つです。

人生において、何を語ったか、何を考えたかは、実はそれほど重要ではありません。重要なのは「何をしたか」、そして「どのように生きたか」です。

私は若い頃、30歳までは学問と芸術に生き、それ以降は人道的な奉仕に生きようと決心しました。それは犠牲ではありません。これほど恵まれた環境に生まれた私が、その恩恵を社会に還元するのは、当然の義務であり、同時に喜びでもありました。

あなたに、「すべてを捨ててアフリカへ来い」と言っているのではありません。それは誤解です。

私が言いたいのは、「あなたの居場所で、あなたのランバレネを見つけなさい」ということです。

あなたの周りには、誰かの助けを必要としている人が必ずいます。孤独な老人、悩める同僚、傷ついた動物、あるいは環境そのものかもしれません。

職業としての仕事とは別に、人間としての「第二の仕事」を持ってください。報酬を求めず、名誉を求めず、ただ目の前の生命に奉仕する時間を持つこと。ほんの少しの時間でも構いません。誰かのために自分の命を使うこと。

その時、あなたは初めて「生命への畏敬」を体験として理解するでしょう。

サービス(奉仕)とは、自己犠牲のような暗く辛いものではありません。それは、自分という小さな存在が、大いなる生命の連鎖の一部であることを実感できる、至高の幸福なのです。「幸福な人とは、奉仕する方法を探し求め、そしてそれを見つけた人である」と私は確信しています。

第四章:苦悩の秘密結社

人生には避けがたい苦しみがあります。病気、貧困、争い、死。

私は医師として、毎日毎日、苦痛に喘ぐ人々と向き合ってきました。その中で感じたのは、苦しみを知る者同士の連帯感です。

私はこれを「苦悩の秘密結社」と呼んでいます。

一度でも大きな苦痛や悲しみを味わった人は、世界のどこかで同じように苦しんでいる人々のことを、我がことのように感じる感性を持っています。

健康な人、幸せな人には見えないものが、苦しみを知る人には見えます。

もし、あなたが人生で辛い経験をしたことがあるなら、それは呪いではありません。それは、あなたが他者の痛みに寄り添うための「資格」を得たということです。

苦しみから救われた人は、まだ苦しみの中にいる人を救う義務があります。その義務を果たす時、あなたの過去の苦しみは、愛へと昇華されます。

誰の目にも触れないところで、誰かの涙を拭うこと。

世界中のニュースにならなくとも、あなたの隣人のために扉を開けてあげること。

この「目立たない、小さな親切」の積み重ねだけが、冷え切った文明社会を内側から温め、人間性を取り戻す唯一の方法なのです。

第五章:希望を持ち続けること

最後に。

私たちは時に、世界のあまりの残酷さに絶望しそうになります。私が生きている間にも、二度の世界大戦があり、核兵器という脅威が現れました。人間は、自らが生み出した力で、自らを滅ぼそうとする愚かな生き物に見えるかもしれません。

しかし、絶望してはいけません。

人間には、知性だけでなく、憐れみという感情が備わっています。どんなに冷酷に見える人の中にも、燃え尽きることのない「良心の火種」があります。

私たちの仕事は、その火種に風を送り、炎にすることです。

理想主義だと言われるかもしれません。しかし、現実を変える力を持つのは、いつだって「倫理という名の理想」を信じ抜いた人々だけでした。

力による支配は、いつか必ずより強い力によって倒されます。しかし、精神による感化は永遠です。

あなたへのメッセージ

人生で一番大事なこと。

それは、あなたの内にある「生きようとする意志」を深く見つめ、同じ意志を持つ他者の生命を畏れ敬うことです。

どうか、目を開いてください。あなたの助けを待っている仕事が、すぐそばに転がっています。

どうか、耳を澄ませてください。声なき生命の叫びが聞こえるはずです。

どうか、考えることをやめないでください。時代の流れに抗ってでも、人間性を守り抜いてください。

あなたが自分の内なる光に従って、誰かのために小さな灯りをともす時、その光は必ず闇を照らします。

私の人生は、その真理を証明するための、一つの実験に過ぎませんでした。次は、あなたがあなたの場所で、その実験を引き継いでくれることを願っています。

あなたの人生が、愛と奉仕、そして深い思索に満ちた、実りあるものになりますように。

遠きアフリカの地より、祈りを込めて。

アルベルト・シュヴァイツァー

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